3月15日付の「今週の直言」(第774回)で、楽天に対する日本郵政の出資と、中国IT大手テンセント(騰訊)の子会社からの出資について懸念を指摘した。ここでは経済安全保障にかかわる後者の問題をさらに深掘りしたい。
一つは、日本の外為法による規制の心もとなさだ。
2019年秋、欧米による投資規制強化の動きに呼応して、日本も外為法を改正した。しかし、強化されたはずの外為法でも、驚くことに、今回のテンセントによる楽天への出資は事前の届け出は必要ないのだ。テンセントは国有企業でなく「民間企業」だからだ。中国がテンセントへの統制を強化しているにもかかわらず、杓子定規のルールになっている。
また事前の届け出がなくても、「楽天の個人情報にアクセスしない」との条件を付けられるので大丈夫だ、という意見もある。一見よさそうだが、これも気休めにしかならない。日本は米国と違ってインテリジェンス(諜報)の機能がないに等しい。条件を守っているかをチェックできるのだろうか。
●楽天の米国事業に影響も
他方で、米国は今回の出資を厳しい目で注視している。実は日本の法規制だけでなく、米国の規制対象にもなるのだ。
楽天は米国でも事業を行っており、そうした会社に対する出資は対米外国投資委員会(CFIUS)による規制対象になる。CFIUSの調査の結果、問題があれば遡って大統領は無効化することもできる。
例えば、2018年に日本の大手住宅建材メーカーLIXILはイタリアの子会社を中国企業に売却しようとした。しかしこの子会社は米国でも事業を行っており、CFIUSから承認されず、破談になった。テンセントに対する米国の懸念を考えれば、安全保障上の重要度はこのケースの比ではない。
楽天は米国事業を急速に拡大している。2019年には第5世代通信規格「5G」関連の米国企業と資本業務提携をしている。また、トランプ政権下で信頼できる通信事業者による「クリーン・ネットワーク構想」に参加が認められている。そして、5G対応のための米国主導の新たな業界団体にも参加している。こうした米国主導の枠組みに参加していながら、テンセントと提携することを米国はどう受け止めるか。今後明らかになるテンセントとの提携内容次第では、楽天の米国事業にも影響しかねない。
●日本の対中姿勢の試金石に
米国政府は楽天だけではなく、日本政府がどう対処するかも注目している。
ワシントンの中には、菅政権が中国に融和的ではないかとの懐疑的な見方もある。4月に初めての対面での日米首脳会談を控えて、こうした疑念を払しょくする対処をすべきだろう。(了)