宗教団体である創価学会を支持母体とする連立与党の一角、公明党は「平和の党」「人権の党」を自任してきた。その看板を掲げるのであるならば、中国当局による香港、新疆ウイグル自治区、チベット、南モンゴル(内モンゴル自治区)での人権弾圧に抗議する時ではないのか。公明党は実際にはその逆のことを行っている。
超党派の日本ウイグル国会議員連盟など6団体は、中国の深刻な人権侵害行為を非難する国会決議の早期採択を目指している。ところが自民党と公明党の協議で、公明党側が菅義偉首相の訪米前の採択に慎重姿勢を示したため先延ばしとなった。
決議は本会議での全会一致を原則としているため、議連としても公明党側の要求を受けざるを得なかった。議連幹部は公明党の慎重姿勢の理由について「国会決議を受けて日米首脳会談が行われると人権に関心が集まる。中国側の反発も当然予想されるため懸念したのではないか」と語る。
●ウイグル人の訴えを聞け
公明党の山口那津男代表は3月30日の記者会見でも、人権問題で日本が欧米諸国と足並みを揃えて、対中制裁に踏み切ることについて、「わが国が制裁措置を発動するとすれば、(中国当局の)人権侵害を根拠を持って認定できるという基礎がなければ、いたずらに外交問題を招きかねない」と消極姿勢を示した。
公明党は1972年の日中国交正常化に向けた環境整備に尽力するなど、中国共産党とのパイプ役を務めてきた。山口氏は2013年1月に訪中し、前年11月に中国共産党総書記に就任した習近平国家主席と日本の要人としては初めて会談した。そうした経緯もあり、一貫して中国の立場に理解を示してきた。中国の人権弾圧に国際的な批判が強まっても中国側に忖度し、擁護の姿勢を変えようとしない。
山口氏にはいますぐ在日ウイグル人らと面会し、彼らがいかに弾圧を受けているか、素直に耳を傾けてほしい。
創価学会内にも「国交正常化から半世紀近く経ち、日中を取り巻く状況も大きく変わった。公明党や学会が大切にした周恩来首相らはもはやいない。公明党がやるべきは習近平体制の覇権主義、人権侵害を率先して批判し、是正を求めることではないのか」との声が出ている。山口氏は北京の顔色ばかりを見るのではなく、支持母体内からの意見も聞くべきだろう。
●自民が陥る「票の罠」
公明党の言動に対し、連立を組む自民党から一部を除いて異論が聞こえてこないのも深刻である。小選挙区から立候補する自民党衆院議員の多くは公明党からの支援を期待しているからだ。中国は途上国に多くの融資を行っているが、借り入れ国に「債務の罠」を仕掛けているという疑惑がしばしば報じられてきた。同じことが自民党と公明党の関係についてもいえる。「票の罠」にかかり、本来言うべきことが言えなくなっているとしたら何のための連立か。中国の深刻な人権侵害に日本の沈黙は許されない。(了)