私は5月17日付の本欄で、送還忌避者(退去命令を受けながら送還に応じない外国人)の処遇などに関する出入国管理法改正案に関する論議に国益への目配りが不足しているとの問題提起をした。しかし、政府・与党は18日、今国会での改正案成立を断念した。その結果、送還忌避者の増加による収容長期化や仮放免者逃亡などの懸案が解決できず、収容者の人権擁護の困難さも解決されないままだ。
ぜひ、次の国会で改正案が成立することを願うが、そのためにはやはり外国人政策を巡る議論全体の偏向を正すことが必要だ。まず、今回の改正が送還忌避者対策だということを広く知らせなければならない。
●増加する送還忌避者
法務省は「送還忌避者」という用語を使っているが、全国紙でこの用語を使っているのは読売だけだ。これでは上川陽子法相が改正案提出の目的として「送還忌避や収容長期化の問題が生じている。様々な方策を組み合わせてパッケージで解決する」「在留を認めるべき外国人を受け入れ、ルールを破る外国人は退去させることが一層明確になる」と語ったことの意味を正しく理解できない。
出入国在留管理庁はホームページに「そこが知りたい!入管法改正案」を掲載している。与党政治家では、赤池誠章参院議員(自民)がブログで、送還忌避者が3000人もいて様々な問題が起きていることや、外国人の人権を保護するために工夫された改正案の内容を詳しく説明している。
しかし、いわゆる支援団体や弁護士らの激しい反対論ばかりがマスコミで紹介されている。彼らは、全ての不法滞在者に「アムネスティ」(赦免)を通じて在留資格を与えよという提言をしている。改正案提案者の主張が国民の間に広まっていない。この偏りをまず正すべきだ。
●支援者との面会で心変わり
問題となっているスリランカ人女性の死亡についても、事実関係の検証とその上に立つ再発防止策を議論が必要だ。17日付の本欄で私は「留学ビザで入国して学費を滞納し、在留資格を喪失して不法滞在になったケースで、難民申請者ではない」と書いたが、実は留学ビザが切れた直後に難民申請をして却下されていた。却下後に逃亡して不法滞在となり、20カ月後に警察に出頭、帰国を望みコロナ禍のため待機していたが、昨年12月、支援者に会ってから送還忌避者となった。詳しい経緯は以下の通りだ。
平成29年6月日本に留学のため入国。30年9月留学ビザ1年3カ月の期限が切れるタイミングで、帰国したら地下組織に殺されるという理由で難民申請し、31年1月申請が却下され、逃亡して不法滞在となる。令和2年8月19日同居していたスリランカ人男性の暴力から逃げるため警察に出頭し、入管へ移送され、8月20日入管施設に収容されて、帰国の意思を表明。しかし、コロナの影響で送還不可能となり、12月支援者が面会に来るようになり送還忌避者となった。令和3年1月体調不良を訴え、3月6日死亡。(了)