公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

屋山太郎

【第53回】存在意義失った民主党

屋山太郎 / 2010.08.30 (月)


国基研理事・政治評論家 屋山 太郎

日本を潰す小沢氏出馬
民主党は菅直人、小沢一郎両氏が激突し、党分裂の様相を呈している。小沢氏は「菅内閣の無策ぶりでは日本が潰れる」と代表選出馬を決意したそうだが、小沢氏の決意こそ、日本を潰すものではないか。

鳩山由紀夫、小沢両氏は3カ月前、参院選敗北必至まで追い込まれ、「政治とカネ」の責任を取って代表(首相)と幹事長をそれぞれ辞任した。カネについて小沢氏は国会でも国民の前でも一切説明していない。3人の秘書が起訴され、自らは検察審査会で「起訴相当」の議決を受け、2度目の審判を待つ身である。

そういう人物が、首相になるかもしれない代表選に名乗り出る資格があるのか。それこそ日本の道徳を根底から覆すことになると心得るべきだ。小沢氏の党運営は、政策調査会を廃止し、党内の異論を汲み上げる場所をなくすというナチスさながらの独裁体制を作り上げた。これは民主主義政党ではない。

「脱官僚」はどこに
民主党が国民に公約した最大のものは「脱官僚」である。なぜ脱官僚でなければならないか。これまでの政治は財務省がやってきたと言っていい。

全国に98の空港を造ったがハブ(拠点)空港がない。成田に着いてもそこから地元に行く路線はわずか4本。韓国の仁川に着けば日本の地方空港の36カ所に飛んでいる。1980年、神戸港は釜山港の2倍の貨物を扱った。2008年に釜山港は東京、横浜、大阪、神戸4港の合計を上回る貨物を扱っている。財務官僚には「国家経営」の発想がない。だからこそ脱官僚が必要なのだ。

政治主導に切り替える体制改革に取り掛かったのは安倍晋三元首相で、渡辺喜美行革担当相(現みんなの党代表)が公務員制度改革基本法を作った。しかし、自民党では「できっこない」と見切りをつけて渡辺氏は脱党した。民主党はその自民党でできなかった改革を引き継いで、完成してくれるだろうと国民は期待したのである。みんなの党が今年7月の参院選で800万票を集めたことで国民の期待度が分かる。ところが、鳩山内閣はやろうとしてできなかった。

財務省がカネと人事を差配
改革のはらは「国家戦略局」を作るかどうかにかかっている。財務省の主計局は財政の企画、立案、調整機能を持つがゆえに、官僚の中の官僚として君臨している。そこを国家戦略局に担当させ、政治家が握れば政治主導は成立する。

ところが鳩山内閣は「局」を「室」に格下げして無力化した。法整備も諦めた。菅内閣に至っては単なるシンクタンクにするという。一方で公務員改革は棚上げされ、①官民交流促進のための諸措置 ②国家公務員退職管理基本方針―なるものが実現した。財務省がカネと人事を差配する最悪の構図となった。民主党は存在意義を失ったのだ。(了)

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第53回:存在意義失った民主党(屋山太郎)