公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第812回】菅首相は公明党との関係を見直せ

有元隆志 / 2021.07.05 (月)


産経新聞月刊正論発行人 有元隆志

 

 今秋に行われる衆院選の前哨戦として注目された東京都議選(4日投開票)で、自民党と公明党は目標とした過半数(64)に届かなかった。自民党は4年前の歴史的大敗からは回復したものの、伸び悩んだ。東京五輪・パラリンピックの中止・延期論が根強いことに加え、新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐる混乱も響いた。
 菅義偉政権が昨年9月に発足してから、自民党は4月の衆参3選挙区で不戦敗を含め全敗したほか、千葉、静岡両県知事選でも推薦候補が落選するなど結果を残せていない。都議選でもその傾向は続いた。連立を組む公明党に忖度するあまり、先の通常国会で見送りとなった中国によるウイグル人らへの深刻な人権侵害を非難する決議案だけでなく、敵基地攻撃能力の保有、原発活用でも後ろ向きの姿勢が目立つ。これでは何のための連立政権かと言いたい。

 ●自民党の失速
 自民党は当初50議席台を回復するともみられていたが、新型コロナウイルスワクチンの供給不足が生じたことで「支持が都民ファーストの会に流れた」(都連幹部)。加えて、都連幹部は「同性愛者など性的少数者(LGBT)への理解増進を図る法案や夫婦別姓問題で党内対立が起き、一方で対中非難決議案や入管法改正案を見送ったことで支持層への浸透が図れなかった。これまでの自民党ではありえないことだ」と憤る。
 対中非難決議案の採択見送りについて、公明党の北側一雄副代表は自民党内で意見が一致しなかったのが原因との認識を示したが、決議案採択に尽力した自民党の長尾敬衆院議員は月刊正論8月号への寄稿で、自民党幹部が公明党に配慮したためと明かしている。長尾氏は公明党の山口那津男代表が「決議案で一番ブレーキを踏んだ」と批判する。
 党内に公明党への不満があるにもかかわらず、菅首相は6月に次期衆院選の小選挙区に公明党が擁立する9人の推薦内定書を手渡した。衆院解散後に推薦を決めるのが通例だが、都議選や衆院選での公明党の協力に期待し、時期を早めた。それでも自民党は、都議選で前回の25議席からは増えたが、一部で公認候補が重ならないよう候補者調整をした立憲民主党と共産党の当選者計34人よりも少ない33議席にとどまった。公明党は全員当選を果たしたにもかかわらずだ。

 ●停滞する重要課題への対応
 故小渕恵三元首相が平成11(1999)年に公明党との連立政権樹立に踏み切ったのは、参院で自民党が少数派だったため内閣の命運がかかる重要法案の成立を実現するのが目的だった。それが菅政権では選挙協力が先行し、公明党に過度に配慮しているため、安全保障、原発の扱いなどエネルギー問題、人権問題への対応で停滞が生じている。
 今こそ自民党は公明党依存を見直し、喫緊の課題であるこれら重要課題に正面から取り組むべきだ。そうでないと自民党支持層は益々離れるだろう。それは〝立憲共産党〟を利するだけで、決して日本のためにはならない。(了)