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細川昌彦

【第814回】「人権考慮の輸出管理」から逃げていいのか

細川昌彦 / 2021.07.12 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 中国の新疆ウイグル自治区の人権侵害を巡って、米欧で貿易を規制する動きが急速に強まっている。
 米国は新疆産の原材料を使う綿製品、トマト製品、太陽光パネル部材を輸入禁止にしている。この関連でユニクロの綿シャツの輸入を税関で差し止めた。また、人権侵害に加担している企業と利用され得るモノに着目して輸出を規制しており、既に多くの中国企業に事実上の禁輸措置を取っている。
 欧州各国は人権侵害に利用され得る製品の輸出管理を行っているが、欧州連合(EU)もサイバー監視関連で輸出管理を実施する予定だ。
 さらに注目すべきは米欧の共同歩調だ。6月15日、米EU首脳会議で「貿易・技術評議会」が創設された。目的は中国に対抗する米欧協力の具体化だ。その一環として、人権を脅かす技術の流出を防ぐ輸出管理でも共同歩調を探る。

 ●企業にリスクを負わせる日本政府
 こうした中で、日本政府は人権に着目した輸出管理にいまだ乗り出していない。ユニクロの事例のように、日本企業の人権問題への姿勢が欧米から厳しい目で見られている。今後、欧米企業が輸出規制によって失った市場に日本企業が輸出することで不当な利益を得ているとの国際的な批判を受けることも懸念される。逆に日本企業が自主的に中国との取引をやめると、中国側から報復を受けかねない。日本企業は板挟み状態だ。日本政府は企業がリスクを負う現状を放置せず、人権を考慮した輸出管理に乗り出すべきではないか。
 そうした問題意識に基づき経済産業省の審議会で検討を加えてきたが、6月10日に公表された中間報告は期待外れの消極的な内容だった。中国から事実上の制裁と受け取られることを恐れたようだ。自民党内でも議論されたが、その関係者によると、外務省の慎重意見が影響したもようだ。先般の先進7カ国(G7)首脳会議における外務省の対応を見ると、その慎重姿勢は容易に想像がつく。
 G7首脳宣言には「グローバルな供給網における強制労働の根絶に向けた共同行動のための作業を今年10月のG7貿易大臣会合までに行う」と明記されており、日本の消極的姿勢にかかわらず、G7は「共同行動」へと動きだした。ところが、この点は外務省作成の宣言要旨で触れられていないので、日本では報道もされない。外務省はこの問題に関心が向くのを避けたいのだろうか。
 
 ●東芝機械ココム事件に学べ
 むしろ日本政府は正当な企業活動を確保するために具体的な提案を行って、国際的なルール作りに反映させるべきだ。1987年の東芝機械ココム(対共産圏輸出統制委員会)違反事件という苦い経験を経て、日本は国際的な輸出管理のルール作りに力を入れた。インテリジェンス機能の脆弱な日本は、企業が国際的に叩かれやすいからだ。いま直面している人権を巡る状況も同じだ。日本政府の役割は企業だけにリスクを負わせないことにあることをかつての経験から学ぶべきだ。(了)