自民党総裁選(29日投開票)に出馬している各候補に問われるのは、日本を取り巻く安全保障環境の悪化に対処する覚悟があるかだ。
中国・武漢発の新型コロナウイルス対策に当面全力を注ぐべきことは言うまでもないが、急速に軍備を拡張する中国は力による台湾の統一も辞さない構えを示している。各候補は中国の脅威が明白になってきた現状について語り、そのうえで防衛力の強化に向けた具体策を提示してほしい。
●問われる「脅威」認識の有無
10日までに出馬を表明した3候補の記者会見や政策発表をみると、「わが国の領土・領海・領空を守り抜く覚悟です」(岸田文雄氏)、「国の究極の使命は領土・領海・領空・資源を守り抜くこと」(高市早苗氏)、「一方的な現状変更の試みに対抗できる枠組みづくり・抑止力の強化を行う」(河野太郎氏)と、防衛力強化に努める姿勢を打ち出している。
防衛力の強化はすでに国際公約となっている。4月の日米首脳会談後に発表された共同声明では、「(日本は)自らの防衛力を強化すると決意した」と明記された。日本政府はかねて国内総生産(GDP)の1%以内を防衛費の目安としてきた。安倍晋三前政権は1%にこだわらない姿勢を明確にし、続く菅義偉政権を含め平成25(2013)年度から令和3(2021)年度まで9年連続で防衛費を増加したが、それでも1%以内にとどまってきた。
高市氏は記者団に「米欧並みにするならばGDPの2%で、10兆円規模だ。必要なところにしっかりお金をかけないと日本を守れない」と増額に強い意欲を示している。岸田氏はBSテレビ東京の番組で「必要なものは用意しなければならない。絶えず現実を見ながら考える課題だ」と語った。河野氏も「防衛力の整備・強化」を表明している。
問われるのは各候補の「脅威」認識だ。令和3年版防衛白書では、中国について「わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」との表現にとどまった。北朝鮮については「重大かつ差し迫った脅威」と明記したにもかかわらずだ。中国を刺激したくないとの意向が働いたとみられる。
●抽象論は聞き飽きた
中国経済への依存度が高い経済界にはその傾向が特に強い。日本では日用品や家電でも「メイド・イン・チャイナ」が広がっている。だが、昨年の新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの品薄が見られたように、サプライチェーン(供給網)の脱「中国依存」は喫緊の課題となっている。
中国は旧ソ連と異なり、世界経済に深く組み込まれており、デカップリング(切り離し)は容易ではない。それでも、各候補には総裁選での討論を通じて、中国への「脅威」認識について語り、いかに日本を守ろうとしているかを示してほしい。
抽象的な議論は聞き飽きた。問われるのは、明確なメッセージだ。(了)