公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第844回】「反共」4党で憲法改正に突き進め

有元隆志 / 2021.11.01 (月)


産経新聞月刊正論発行人 有元隆志

 

 衆院選で自民党は解散時よりも議席数を減らしたものの、国会を安定的に運営できる絶対安定多数を単独で確保した。さらに自民、公明の両与党と、公約に憲法改正の方向性を明記した日本維新の会、国民民主党を加えると、改憲勢力は憲法改正発議に必要な310議席を優に超えた。政権発足から間もない岸田文雄首相は、選挙戦で公約したように「憲法改正を実現すべく最善の努力」をしてほしい。
 
 ●「立共合作」を打破
 今回の選挙戦では、日本共産党が立憲民主党と「限定的な閣外協力」で合意し、多くの選挙区で候補者を一本化した。ところが、岸田首相は選挙戦終盤になるまで、遊説などでこの問題に言及しなかった。憲政史上、初めて共産党の政権参画が実現するかもしれない重大な問題を先頭に立って訴えるべきだった。岸田首相には猛省を促したい。それでも自民党は4年前の衆院選において4選挙区すべてで敗北した沖縄県で二つ勝利したほか、立憲民主党で共産党との連携の旗振り役だった小沢一郎氏を小選挙区で破るなど、各地で健闘した。
 野党の中では、候補者一本化に距離を置いた維新が躍進して第3党になった。「立共合作」が振るわなかったことは、国民の良識を示したといえよう。
 衆院選の結果を「反共」という視点でみると、自民、公明、維新、国民民主という枠組みができる。4党の議席数を合わせると憲法改正発議が可能な345議席に達した。参院では4党を合わせると169議席で、発議に必要な164議席を上回る。
 岸田首相は10月29日、国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長が主宰するインターネット番組「言論テレビ」に出演し、憲法改正について「今までも3分の2を取れてもなかなか進まない時があった。選挙結果も大事だが、具体的にどう改正するか議論する中で、賛成者を増やして3分の2に持っていく」と述べた。
 岸田首相が指摘したように、憲法改正に強い意欲を示した安倍晋三政権下では、自公両党だけで衆参両院で3分の2以上の議席を確保していても改正は実現しなかった。維新と国民民主党の協力を得られれば、実のところは改憲に積極的ではなかった公明党も重い腰を上げる可能性もある。

 ●カギ握る維新・国民との協力
 岸田首相は番組の中で、自民党政調会長時代に憲法改正をテーマにした地方政調会を開催したことを紹介し、「これまで憲法改正というと恐ろしいとのイメージもあったが、教育の充実、一票の格差(の是正)、緊急事態(条項の新設)、自衛隊の(9条への)明記は十分理解できると気付く方が多かった。世論が変われば国会も影響される」と述べた。そのうえで、国会における賛成者を増やす作業とともに「市民との対話を並行して進めることが憲法改正につながる道だと信じている」と強調した。
 「聞く力」があると自負する岸田首相は、維新や国民民主の意見に耳を傾けながら憲法改正への協力を得て、改正実現に動くべきだ。それが岸田首相に課せられた使命である。(了)