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濱本良一

【第851回】習氏の思い通りに行かなかった「歴史決議」

濱本良一 / 2021.11.15 (月)


国基研客員研究員・ジャーナリスト 濱本良一

 

 中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第6回総会(6中総会、11月8~11日)が、習近平時代を称賛する党史上3回目の歴史決議を採択し、閉幕した。来秋の第20回党大会で、慣例を破って総書記3期目就任を狙う習近平氏。党創立100周年を利用し、党史を総括する中で自らの権威を高めたかったのだが、必ずしも習氏の満足できる内容にはならなかった点にも注目すべきだ。

 ●江沢民、胡錦濤派から異議申し立て
 過去2回の歴史決議の目的は、毛沢東時代の決議(1945年)が親ソ連派幹部の打倒であり、鄧小平時代のそれ(1981年)は文革路線すなわち毛沢東独裁政治との決別だった。共通するのは、決議採択を主宰した党最高指導者の威信の強化である。
 今回の決議に目新しい要素はほとんどないのだが、江沢民、胡錦濤の元・前総書記2人の功績が明確に記述されたのがポイントである。
 習氏は党100年の歴史を4区分することに執心している。中央党史・文献研究院を動員し、中華人民共和国の建国(1949年)と改革・開放路線のスタート(1978年)を2本の基軸に、党創立(1921年)から建国までを第1期とした。建国から78年までは第2期で、いずれも毛沢東時代。それ以降を第3期として鄧小平、江沢民、胡錦濤の3氏を一括りにしてしまった。そして習氏が総書記に選出された2012年以降を第4期として独立させた。その狙いは習氏を突出させるためだった。6月にオープンした党歴史展覧館にも、4区分された党史がパネルとして展示されている。
 今回の歴史決議を起草するに当たり、存命する江、胡の両長老筋あるいは鄧小平支持派から、この4区分に異議が出たことは想像に難くない。富強大国の礎を築いた鄧氏だけでなく、江、胡両氏の功績もきちんと記載すべきだという主張である。党トップだった華国鋒、胡耀邦、趙紫陽3氏の名前が消え失せたことにも異論があろう。習氏の強引な党史解釈に、党内から強い不満が出ていることが容易に見て取れるのである。

 ●2049年まで続く中国の攻勢
 歴史決議の外交面では、「中国の特色ある大国外交が全面的に推進され、人類運命共同体の構築が時代の潮流と人類前進の旗印になった」と自賛した。強権的な〝戦狼外交〟で国際的孤立を招いたことへの自省は微塵もない。「大国外交」の表現は、強硬外交の継続宣言だ。これまでも党大会の前は党内の権力争いが激化しており、日本がカードのように利用される恐れがある。尖閣諸島の問題を含めて警戒が必要だろう。
 6中総会と前後して、気候変動問題で米中両国の政策協力の合意が突如発表され、習氏とバイデン米大統領によるオンライン首脳会談が15日夜(米東部時間)に行われることも決まった。先の中国の環太平洋経済連携協定(TPP)加盟申請や台湾海峡を巡る最近の米中の動きに日本も無関係ではいられない。
 次期党大会は「次なる建国100年(2049年)の奮闘目標に向かう極めて重要な大会」と定義された。日本にとって試練の日々が続く覚悟が必要だ。(了)