バイデン米大統領主催の「民主主義サミット」が9、10の両日、オンラインで開催された。約110か国・地域の首脳らを招待しての異例の規模だが、招待国の選定には戦略的観点から疑問も投げかけられた。それはともかくとして、成果として「輸出管理・人権イニシアチブ」という新たな枠組みを発足させたことは注目すべきだ。問題は、その発足に関する重要な共同声明に、日本が署名も支持もしていないことだ。
内容は、監視カメラや顔認証などの先端技術が人権侵害に使われないよう、今後1年かけて有志国で輸出管理の「行動規範づくり」をしようというものだ。米国、オーストラリアなど賛同する国々が署名し、英国、フランス、カナダなど支持を表明する国々も名を連ねている。しかし、いずれにも日本の名はない。中国を刺激することを嫌った外務省の判断だ。対応ぶりは韓国と同じだが、日本は韓国と同列でいいのだろうか。
米国からの事前の参加打診に「今後の協議には加わるものの、共同声明には名を連ねない」との方針を伝えたという。「支持もせずに協議だけ加わる」とは虫がよすぎないか。遅ればせながら、今からでも支持すべきだろう。
●輸出管理は躊躇すべきでない
中国による新疆ウィグル自治区での人権侵害に対して、米国、欧州はすでに制裁だけでなく、輸出管理などの貿易措置も講じている。10月の先進7か国(G7)貿易相会合では「輸出入規制などの貿易措置が(人権侵害に対する共同行動として)有効な手段になり得る」と共同声明に明記された。G7の中でこうした貿易措置を講じていないのは日本だけだ。日本ももはや避けて通れないのは明らかだ。
ところが外務省は中国との関係から一貫して否定的だ。むしろこの問題にメディアの関心が向かないように腐心さえしている。6月のG7首脳会合の共同声明にある関係部分も外務省作成の要約ではあえて触れていない。
しかし、人権侵害を阻止するために輸出管理を行うのは先端技術を保有する日本の責務だ。具体的な運用は慎重にすべきだが、こうした当然あるべき制度さえも持たないで人権重視と果たして言えるだろうか。もちろんインテリジェンス(情報収集活動)の強化も必要だ。
●問われる岸田政権の基本姿勢
中国を名指ししない制度でさえ中国の顔色をうかがう外交姿勢だ。「岸田政権は来年の日中国交50周年を優先している」という懐疑的な見方もワシントン界隈にある。岸田文雄首相は早期に訪米してバイデン大統領との首脳会談を望んでいるが、これで果たして基本的な価値観を共有すると胸を張れるのだろうか。
これは決して対米追従するものではない。独自の国益を踏まえたうえで、岸田政権の人権問題に対する立ち位置自体が問われているのだ。(了)