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細川昌彦

【第898回】日本はサハリン事業から撤退すべきでない

細川昌彦 / 2022.03.14 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 米国がロシア産の石油、天然ガスの輸入禁止に踏み切った。ウクライナに侵攻したロシアの資金源を断つことは重要だとして、バイデン政権が米国世論、議会の要求に応えたものだ。日本としては、国際協調は重要であるものの、自国のエネルギーの安定供給を揺るがすならば簡単に同調できない。冷静に自国のエネルギー安全保障について判断することが必要だ。
 一方、英国系の国際石油資本であるBPとシェルは、ロシアの石油・天然ガス事業からの撤退を決めた。シェルは極東サハリンでのガス開発事業「サハリン2」から撤退する。市場や投資家からの圧力もあって、企業としての経営判断だ。このサハリン2に日本もエネルギー権益を持ち、総合商社が事業に参加している。また原油を生産する「サハリン1」にも日本は政府も含めて参画している。国際石油資本の撤退の中で、日本はどうすべきか。

 ●重視すべきはエネルギー安保
 萩生田光一経済産業相はサハリン1、サハリン2から日本企業が撤退することについて、「その後をどこかの第三国が権益を取ってしまったら、制裁にはならない」と国会で答弁した。脆弱な日本のエネルギー安全保障を考えれば、日本企業をサハリン・プロジェクトから撤退させるべきではないのは当然の判断だ。
 日本の天然ガス輸入の9%がロシアからで、そのうちの9割(輸入の8%)がサハリンからだ。天然ガスは発電に使用されるので、原油以上に電力の安定供給に直結する。日本では昨年の冬、停電の危機があったが、今冬も電力需給はひっ迫しており、綱渡り状態だ。サハリンの天然ガスの供給が途絶すれば、この冬の停電も覚悟しなければならない。日本企業によるサハリンの天然ガス供給は日本のエネルギー安全保障に直結しているのだ。開発当初から政府が支援して、官民一体でプロジェクトを進めてきた理由もそこにある。
 シェルはサハリンの天然ガスを、会社の拠点のある英国やオランダに供給しているわけではない。日本のほか、中国やインドにも販売している。サハリンの天然ガスがエネルギー安全保障に直結する日本とは意味が違う。

 ●中国が「漁夫の利」
 さらに、仮に日本企業がサハリンから撤退すると、萩生田経産相が示唆したように、中国が事業を安価に手に入れるだけだ。巨額のプロジェクトの開発リスクは日本の政府と民間企業が負って、おいしい果実だけさらわれることになる。中国は西側とロシアの争いに乗じて「漁夫の利」を得ることになる。
 かつてイランに対する制裁の一環として、日本は米国からの圧力でアザデガン油田の開発からの撤退に追い込まれた苦い経験がある。その時、日本が撤退した間隙を突いて触手を伸ばしたのが中国であった。歴史を教訓とすべきだ。(了)