公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第908回】北朝鮮の核恫喝にどう立ち向かうのか

西岡力 / 2022.04.04 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 北朝鮮が核兵器による露骨な恫喝を行った。北朝鮮が米国本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行したことに対して、韓国国防相は4月1日、「ミサイル発射の兆候が明確な場合には、(韓国は)発射地点と指揮・支援施設を正確に攻撃できる能力と態勢を備えている」と発言した。すると2日、金正恩委員長の妹で実質的な権力者の金与正朝鮮労働党副部長と軍事部門トップの朴正天党政治局常務委員が、それぞれ次のような談話を出して恫喝した。

 ●韓国に露骨な脅し
 「(韓国国防相は)核保有国を相手に『先制攻撃』をむやみにうんぬんし、自分たちにも決して有益でない軽率な空威張りをしたのである。気違いで、くずである。(略)惨事を避けようとするなら、自粛すべきである」(金)
 「核保有国に対する『先制攻撃』をうんぬんするのは、気違いか、馬鹿か。(略)先制攻撃のような危険な軍事的行動を強行するなら、わが軍隊は容赦なく強い軍事力をソウルの主要標的と南朝鮮軍を壊滅させるのに全て集中するであろう」(朴)
 プーチン・ロシア大統領に続いて、北朝鮮も非核保有国に対する核使用をほのめかす恫喝を行ったのだ。日本の令和3年版防衛白書は、既に北朝鮮について「核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有している」と明記した。今後、我が国に対しても核による恫喝をかけてくる危険は十分ある。
 我が国と韓国は、米国の核による拡大抑止で北朝鮮の核兵器の脅威に対処している。しかし、その拡大抑止は北朝鮮が米本土まで届く核ミサイルを持つことによって大幅に弱体化する。日米韓当局は、北朝鮮がまだICBM核弾頭の大気圏再突入技術を持っていないと見ている。もし北朝鮮がそれを持てば、重大な危機が来る。3月24日のICBM発射実験でその技術を獲得したのかどうかについて、まだ当局の見方は公開されていない。
 その上、米国ではバイデン政権も共和党も、今年1月以降の北朝鮮による一連のミサイル発射挑発に対してほとんど関心を示していない。国連安保理はロシアと中国の反対で追加制裁はもちろん非難決議さえ出せないひどい状況だ。

 ●独自の核武装も選択肢
 我が国がいま置かれている状況は、ソ連が米本土まで届く核ミサイルを完成した時の英仏両国の状況と同じだ。そのとき両国は、米国は米本土を危険にさらして他国を守らないかもしれないと考え、独自の核武装を決断した。
 自国の安全はまず自国が努力して守るしかない。我が国が核武装をしないことを約束した核拡散防止条約には「異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する」という条文がある。北朝鮮の核恫喝はここでいう「異常な事態」にあたると私は考える。理不尽な核恫喝を受けないために何をすべきか、大議論をすべきだ。(了) 
 
 

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