ロシアのウクライナ侵攻は、現代戦において電力と電波の維持が極めて重要であることを明らかにした。2014年にウクライナのクリミア半島を占拠した際、ロシアが用いた手法は「ハイブリッド戦」と呼ばれるもので、電力を支配して停電を起こし、電波を支配して通信を遮断した上で、偽情報をばら撒き、非正規軍を投入して武力による支配を可能にし、憲法上の規定のない住民投票で一方的にロシアへの併合を宣言した。これは正規軍による戦争とは異なる「グレーゾーン事態」をつくり出すやり方であった。
●ウクライナが情報戦で優位に
しかし、今回、情報戦、世論戦で優位に立っているのはウクライナである。ロシアがウクライナのゼレンスキー大統領の首都キーウからの逃亡といった偽情報を流した直後、携帯電話の自撮りでキーウにいることを証明した。また、西側諸国のメディアを招いてロシア軍の残虐行為を世界中に知らしめる一方、ウクライナ軍がどのような行動を取っているかについては秘匿することで、作戦行動の幅を広げている。さらに、ゼレンスキー大統領は連日のように各国議会向けにそれぞれの国に合わせたメッセージを発し、日本には復興を、米国には武器を、ドイツには「壁」を倒すように求めた。これらのメッセージは各国で大きな反響を呼び、国際世論を味方につけることに成功している。
逆にロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大やウクライナの「ナチ化」など、根拠のない理由を並べ、国際法では認められない形で武力を行使した。侵攻を正当化するため国際社会を説得する努力もせず、世論戦でも完全に劣勢となっている。
このように情報戦、世論戦でウクライナが優勢なのは、ロシアが武力侵攻をしたにもかかわらず、通信インフラや電力インフラを破壊しなかったことにも原因がある。電力と電波がある限り、ゼレンスキー大統領は世界に向けてメッセージを発し続けるし、ウクライナ国内の凄惨な映像が流れ続ける。しかも、国際世論が味方についたことで、宇宙通信インフラを運用する米企業スペースXの最高経営責任者イロン・マスク氏もウクライナに加担し、地上の通信が失われても衛星通信で世界への発信を続けられるようにしている。
●日本が学ぶべき発信力やスピード感
こうしたウクライナの事例から日本が学ぶべきことは何か。第一に、発すべきメッセージを明確に持つことである。それも一方的な懇願や主張ではなく、相手に受け入れられるような形で発信することが必要である。第二に、スピード感である。情報戦は偽情報に瞬時に対応することが求められる。第三に、強力なリーダーシップである。有事の際にリーダーシップを発揮できるリーダーと、それを支えるスタッフや仕組みを持つことである。最後に、戦略をはっきり持つことである。有事の際に必要な電力や電波のインフラを整備し、国家の生存のために何をすべきか、どのような手段を活用すべきかについて、常に頭の体操を怠らず、「その時」に備えることである。(了)