日本学術会議が軍事と民生の双方で活用できる「デュアルユース」(両用)の先端科学技術の研究を事実上容認する見解を示した。この見解は、小林鷹之科学技術担当相に軍民両用研究などへのスタンスを問いただされて回答したものであることに注目すべきだ。
この動きには二つの背景がある。
まず、学術会議は年間10億円もの血税を投入されながら、特定の政治勢力の影響を強く受け、日本の防衛研究に過度のブレーキをかけてきた。このことは厳しく批判されるべきだ。廃止・民営化論まで浮上する中で、政府は学術会議の在り方を検討しており、自己改革の内容も踏まえて近く方針をまとめるとしていた。
今回の見解表明がこうした風圧を避けるための目くらましであってはならない。
もう一つの背景は経済安全保障だ。経済安保担当相としての顔もある小林氏は新見解を「経済安保の推進にもつながる」と評価した。5月に成立した経済安保推進法の4本柱の一つに、官民連携による先端技術の研究開発の推進がある。人工知能(AI)や量子技術などを念頭に、5000億円の基金を活用する。具体的には官民協議会を分野ごとに設立するが、これに大学などの研究機関が参画することが重要だ。そのネックになりかねないのが学術会議の2017年の声明だ。
●世界の非常識「2017年声明」
学術会議は1950年と67年に、軍事研究を行わないとの声明を出している。戦後のこうした古色蒼然とした方針を継承するだけでなく、軍民両用の研究を閉ざしかねない声明が2017年に出された。
当時、防衛装備庁が先進的基礎研究に資金を提供する制度を新設したのに対し、これを忌避するのが狙いだった。研究成果は科学者の意図を離れて軍事転用され得るため、研究の入り口で慎重な判断が必要で、審査する制度を設けるべきだとしている。これを受けて、防衛省の研究制度への申請を認めない大学が続出し、応募は激減した。AIや量子など「軍民両用」の先端技術開発で各国がしのぎを削る中、日本は明らかに立ち遅れてしまった。
これに対して、今回の学術会議の見解では「科学技術を潜在的な転用の可能性で峻別し、扱いを一律判断することは現実的でない」としている。何を今更当たり前のことを言っているのかとの感もあるが、外圧があってやっとここまできたということだ。
●一歩前進だが方針転換ではない
ただし、今回の見解表明を学術会議の方針転換と見るのは早計だ。2017年声明にあるような、軍事転用のリスクがあるというだけで研究を入り口段階から排除するのは非現実的なので修正したにすぎない。学術会議幹部が会見で「軍事目的の研究についての立場に変更はない」と念押ししているのはその証左だ。
それでも明らかに一歩前進だ。経済安保推進法で研究開発を進めるうえでの障害も、これで取りあえず一つ除かれた。
しかし、油断は禁物だ。問題は新見解を大学の研究現場にどう徹底するかだ。否定的な勢力が現場に圧力をかけないよう注視する必要がある。(了)
第184回 日本学術会議について
日本学術会議の問題。これまでの軍事研究反対方針は改善したのか。今回、内閣府特命大臣への回答で、AI、量子コンピューターなど先端科学技術のデュアルユース問題で単純に線引きは不可能と。今さら感はあるが内容は当然。