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今週の直言

有元隆志

【第954回】看板倒れの「有事の内閣」

有元隆志 / 2022.08.22 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 内閣改造に踏み切った岸田文雄首相は10日の記者会見で、改造内閣を「有事の内閣」と位置付けた。「有事」の具体例としてウクライナ戦争や台湾をめぐる米中関係の緊張を挙げたが、首相の口から有事という言葉が出てきた意味は重い。それだけ日本を取り巻く安全保障環境は厳しいとの認識には賛同する。しかし、当の首相がどこまで「有事」を自覚しているか疑問に思わざるを得ない事態が改造直前に起きた。中国が4日、日本の排他的経済水域(EEZ)内に5発の弾道ミサイルを着弾させた際、首相は直ちに国家安全保障会議(NSC)を開催することをしなかったからだ。首相自身がミサイル発射に抗議したのも翌日になってからだった。
 小野寺五典元防衛相は11日夜のBSフジ「プライムニュース」に出演し、「日本の領土のそばに弾道ミサイルが撃ち込まれたということは、普通であればNSCを開いて、正式に強い抗議を出すというのが必要だ」と述べた。首相側近として知られる小野寺氏が首相の対応を批判するのは異例である。
 
 ●日中首脳会談の模索
 与党内からこうした疑問が出てくることは予想されたにもかかわらず、岸田首相はなぜNSC開催を見送ったのか。そもそもNSCは銃弾にたおれた安倍晋三元首相の肝煎りで2013年12月に設置された。岸田首相も外相時代、会議に参加し重要性は認識しているはずだ。
 政府・与党内には、今年が日中国交正常化50周年にあたり、岸田首相が中国の習近平国家主席との首脳会談開催を模索しており、中国側を刺激するのを避けるためNSC開催を見送ったとの見方がある。田中角栄首相と周恩来首相が日中共同声明に署名したのが1972年9月29日であり、署名日の前後に首脳会談の開催を目指していると言われる。岸田首相も改造の際の会見で「こうした時こそ、しっかりと(日中両国が)意思疎通を図ることは重要だ」と述べ、会談の必要性を強調した。
 秋葉剛男国家安全保障局長は17日に中国を訪問し、外交担当トップの楊潔篪共産党政治局員と7時間にわたって会談した。中国側の呼びかけで開催されたもので、首脳会談の調整も行われたとみるべきだろう。

 ●領土を守り抜く決意
 中国を刺激しないようNSC開催を見送ったらとしたら本末転倒である。安倍元首相は中国との対話を模索する一方で、「尖閣諸島を私たちの手で守り抜く決意を見誤らないでもらいたい」と中国側に直接伝えることを忘れなかった。弱みを見せれば付け込んでくるのが中国であり、防衛にかける日本の強い意志と能力を示すことが何よりも肝要だ。そのために早急に取り組むべきは防衛費の大幅な増額である。(了)
 
 

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