10月10日、北朝鮮は9月25日から10月9日まで合計7回行われたミサイル発射について、金正恩総書記が現地で指導した「戦術核運用部隊の軍事訓練」だったと明らかにした。
私が繰り返し指摘しているように、北朝鮮のミサイル発射には国防科学院の試射と軍の訓練の2種類がある。核ミサイル開発は軍でなく党軍需工業部の下にある国防科学院が担当し、開発段階で試射を行う。開発が終わって実戦配備した後に軍が訓練を行う。今回、「訓練」と発表されたのは、これらミサイルが開発を終えて実戦配備されたことを意味する。
●発射ミサイルに模擬核弾頭
北朝鮮は昨年から今年8月までに26回ミサイル発射を行っていた。しかし、その大部分は試射だった。(昨年から今年4月まで20回のうち2回だけが「鉄道機動ミサイル連隊の検閲射撃訓練」、5月から8月の6回は公式報道がなかった)。
今回発射されたミサイルには模擬核弾頭が搭載されていた。目標は「南朝鮮作戦地帯内の各飛行場」(9月28日)、「敵の主要軍事指揮施設」(10月6日)、「敵の主要港湾」(10月9日)とされた。後ろの二つには我が国やグアムの米軍基地、自衛隊基地と港湾も含まれると思われる。
我が国を飛び越えた10月4日の「火星12」発射も「戦術核運用部隊の軍事訓練」だった。火星12は2017年に2回、今回と同じ通常軌道で我が国を飛び越えて発射された。そのときは「人民軍戦略軍発射訓練」とされたが、今回はより明確にグアムへの核攻撃を示唆する発射だった。中国共産党大会後に戦術核の実験を準備しているという内部情報もある。
9月20日付「ろんだん」コラムに書いたように、金正恩総書記は今、二つの恐怖にとらわれている。第一に、韓国の尹錫悦政権成立後に急速に正常化した米韓軍事同盟への恐怖だ。第二が、制裁と国境封鎖で生活難に苦しむ人民の不満が高まっていることへの恐怖だ。それを打開するために、核ミサイルによる軍事挑発を行って自分の身の安全を図りつつ、米バイデン政権を圧迫して制裁緩和を得ようという狙いなのだ。
●軍事圧力継続・制裁強化を
米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発に集中した2017年と異なり、中短距離ミサイルを前面に出しているのは、バイデン政権内にICBMさえ持たなければ核保有国として認める交渉をしても良いという考えの持ち主がいることを見越しているのかもしれない。
2017年に安倍政権はグアムを狙う火星12ミサイルを自衛隊が迎撃できると明言して、日米で軍事圧力をかけ続け、国連安保理決議によって北朝鮮の外貨収入の大半を奪う厳しい制裁をかけた。その結果、制裁解除や支援を得ないまま金正恩氏はトランプ大統領との首脳会談に応じた。
岸田政権もそれに倣い、バイデン政権が安易な譲歩をしないようにクギを刺しつつ、米韓を促して軍事圧力をかけ続け、より厳しい制裁をかけるべきだ。緊張を高めてそれを交渉材料にして制裁緩和や支援を得るというこれまでのやり方が通用しないことを、北朝鮮の独裁者に認識させることが必要だ。(了)
第227回 北朝鮮のミサイル発射は「火星12」か
公式報道は一切なし。2017年の列島越え発射時はすでに実戦段階。軍事的緊張のレベルを意識的に上げた可能性。米韓の斬首作戦演習への対抗なら、次は核実験のチキンレースに。譲歩せずに核と拉致を解決せよ。