公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

  • HOME
  • 今週の直言
  • 【第978回】納得できぬ海洋発射核巡航ミサイルの中止理由
太田文雄

【第978回】納得できぬ海洋発射核巡航ミサイルの中止理由

太田文雄 / 2022.10.31 (月)


国基研評議員兼企画委員 太田文雄

 

 10月27日、米国防総省は「国家防衛戦略」(NDS)、「核態勢見直し」(NPR)、「ミサイル防衛見直し」(MDR)の3文書を公表した。このうちNPRは核搭載海洋発射巡航ミサイル(SLCM-N)の開発中止理由を初めて公に説明しているが、同盟国として大きな懸念が残り、納得できない。実際には議会がSLCM-N予算を復活させたが、弾頭部の予算は未だ付いていない。

 ●中朝の核に直面する日本
 3文書は、ホワイトハウスが12日に公表した米国の外交・安全保障政策の基本文書「国家安全保障戦略」を受けて公表された。SLCM-Nを不要と判断した理由について、NPRは第7章「米国の核能力」の中で、①戦略潜水艦に搭載されている低出力の弾道ミサイルW76-2で限定的な核兵器使用を抑止できること②SLCM-Nがロシアの戦術核兵器を制限する軍備管理交渉の梃子になるか不確実であること③開発費用が大きく、他に優先すべき核近代化計画があること―を挙げた。
 開発中止の背景にあるのは、トランプ政権時代の2018年のNPRでは軍備管理や核不拡散にそれほど重点を置いていなかったのに対し、バイデン政権下のNPRでは、この問題を相当強調しているという違いである。
 米国にとってみればロシアとの非戦略核の軍備管理交渉は重要かもしれないが、1000発を超える中国の核弾頭搭載可能な戦域弾道ミサイルや、連日のように実施される北朝鮮の戦術核運用部隊のミサイル発射訓練に直面している日本にとって、SLCM-Nのキャンセルは17日付の本欄でも指摘したように、致命的である。
 また戦略潜水艦(SSBN)は、同盟国を保証する実効性のある拡大抑止力にならない。なぜなら、グアム島を母港とする攻撃型潜水艦(SSN)と違って、SSBNの哨戒海域がアジアから遠く離れた米本土沿岸であるため。さらに、飛翔体の発射を探知した側にとってみれば、発射されたのが戦略核なのか戦術的な低出力核なのかの判別がつかないので、戦術レベルの敷居を超えて戦略核で応じるであろうから、NDSの10ページに記載されている「エスカレーション管理」が達成できないためである。
 米国が東アジアに展開する戦術核には戦略爆撃機搭載の巡航ミサイルやF35A戦闘機に搭載される核・非核両用弾頭があるが、相手はこれらの動向を上空から把握している。これに対してSLCM-Nは、特に潜水艦搭載の場合に隠密性がある。

 ●「同盟国への保証」と矛盾
 NPRでは、核抑止を確実なものにするための決定事項9項目の4番目に「拡大抑止と同盟国への保証を強化するための措置をとる」とある(3ページ)。これを受けて8ページには「米核戦力の近代化は同盟国を保証するカギとなる」と謳っている。2018年にトランプ政権が開発を決定したSLCM-N計画を中止するのは、この記述と矛盾する。
 また地域別の核抑止に関する記述(14ページ)では、まず「欧州・大西洋地域の強固かつ信頼性のある核抑止」が挙げられ、次いでインド太平洋地域の順番になっているのは、ホワイトハウスの「国家安全保障戦略」で中国との競争に勝つことを最優先に掲げていることと矛盾しないだろうか。(了)
 
 

関 連
国基研チャンネル

第247回 米国の国防3文書が同時に発表

「国家防衛戦略NDS」「核態勢見直しNPR」「ミサイル防衛見直しMDR」、そのうちNPRに同盟国として看過できないことが。海上発射型戦術ミサイルが開発取り止めとなった理由が、ロシア非戦略核ミサイル制限交渉のバーゲニング。言葉では対中抑止・拡大抑止というが米国の目はロシアに向いている。日本は我が事として考えるべし。