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今週の直言

有元隆志

【第986回】中国の微笑外交にだまされるな

有元隆志 / 2022.11.21 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 バンコクで11月17日に行われた約3年ぶりの日中首脳会談前の写真撮影で、習近平中国国家主席は笑みを絶やさず岸田文雄首相と握手を交わした。2014年に安倍晋三首相(当時)と会談した時には無表情だったのと対照的である。中国の微笑外交には魂胆がある。米バイデン政権は新たな対中半導体輸出規制に取り組むなど、厳しい姿勢で中国に臨もうとしている。中国経済が減速しているなかで、米国による対中包囲網に亀裂を生じさせようとしているのだ。

 ●なぜ急ぐ林外相訪中
 会談に同席した中国の王毅外相は8月、予定していた林芳正外相との外相会談を急きょ取りやめた。日本が他の先進7カ国(G7)諸国とともに中国による台湾周辺での大規模軍事演習に懸念を表明したことに反発したためだ。演習では日本の排他的経済水域(EEZ)の中に相次いで弾道ミサイルを撃ち込んだ。日本が抗議するのは当然であり、中国から批判される理由はない。
 にもかかわらず今回の首脳会談では、林外相の訪中加速を申し合わせた。8月に会談をドタキャンしたのは王外相である。非礼を詫びるのは中国側であり、それを棚上げにして、林氏のほうから訪中するのが、習氏が語った「新時代の要求に合った関係の構築」なのか。
 このほど亡くなったジャーナリストの野村旗守氏は中国において拘束されたウイグルやチベットの人たちの臓器が強制的に摘出される「臓器狩り」を追及していた。野村氏はミニコミ誌の取材で「日本の国力をなんとか回復して、国を立て直す。そうしないと、弱い人を助ける余力もなくなる」と語っていた。野村氏の言う「国力」には当然軍事力も含まれる。圧力を跳ね返す軍事力を日本自ら持たなければ「中国という非民主主義的で残酷な国家の従属国にさせられる」と野村氏は強調していた。

 ●防衛力強化を
 恐らく岸田首相も野村氏のような危機感を共有しているだろう。5月の日米首脳会談後の共同声明で「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」との決意を表明したのは岸田首相その人であるからだ。
 岸田首相が率いる自民党の派閥、宏池会の会長だった鈴木善幸首相(当時)は1981年の日米首脳会談後の共同声明に初めて「同盟」という言葉を盛り込んだものの、「軍事的意味合いは全くない」と発言し、国内外の信用を失った。岸田首相は先輩の轍を踏まないよう自らの公約を守り、年末の予算編成で防衛力の「抜本的な強化」の姿をはっきりと示すべきだ。(了)
 
 

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