公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第993回】「防衛増税」に反対する

有元隆志 / 2022.12.12 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 岸田文雄首相は防衛費増額の財源として1兆円程度を増税でまかなう方針を示した。日本を取り巻く安全保障環境が悪化している中で、「抑止力と対処力を抜本的に強化する」との岸田首相の姿勢は評価されるべきであるが、いきなり増税に頼ることには反対だ。首相には撤回を求めたい。

 ●唐突な首相指示
 増税に踏み切るなら、まず与党内の議論を十分に行うべきだ。それを岸田首相は8日にいきなり「総理指示」という形で増税の検討を命じた。しかも年内に決定する方針を示した。異常事態と言ってもいい。
 首相は10日の記者会見で「今年初めから議論を積み重ねてきた」と強調したが、自民党内の反応は異なる。首相発言は唐突と受け止められた。閣内からも異論が出ている。
 仮に「議論を積み重ねてきた」と言うなら、7月の参院選で公約として掲げるべきだった。自民党は公約で「国防力を抜本的に強化する」と唱えたが、増税には触れなかった。首相は会見でこの点を問われると「公約などで訴えることは大事だと思うが、選挙の時期にかかわらず政治はずっと動いている。参院選の時期を乗り越えて議論が煮詰まってきたので、今、国民の皆さんに協力をお願いしている」と述べた。これでは説得力を持たない。
 為政者としてなすべきは、できるだけ国民に負担をかけないことである。増税をせざるを得ないのであるならば民意を問う、つまり総選挙を実施すべきだ。それすら岸田首相はやろうとしない。プロセスとして間違っている。

 ●財務省の「先兵」
 1994年2月、細川護熙首相(当時)は国民福祉税の構想を突然発表したが、税率7%の根拠を聞かれると「腰だめの数字だ」と理由があやふやなことを認め、求心力を一気に失い、3カ月後に内閣総辞職をした。1兆円増税を打ち出した岸田首相の姿は、細川氏を彷彿とさせる。
 岸田政権がまとめる「国家安全保障戦略」など安保3文書の改定では、「反撃能力」や「能動的サイバー防御」など、安全保障に力を入れた安倍晋三元首相でも成し得なかった項目が多数含まれている。岸田首相には是非これらを実行に移してほしい。
 1兆円強の財源措置は2027年以降のことであり、自ら財務省の「先兵」として増税に突き進むことはせず、与党内で議論させ、その上で決断すべきだろう。岸田首相は就任以来、「聞く力」をアピールしてきた。いまこそ「聞く力」を発揮してほしい。(了)