公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第1004回】「ピークパワーの罠」に向かう中国

湯浅博 / 2023.01.23 (月)


国基研企画委員兼研究員 湯浅博

 

 中国の人口が61年ぶりに減少に転じた。国連の「世界人口予測」や中国社会科学院の予想より8年も早い頭打ちである。同時に2022年の国内総生産(GDP)の伸びも、政府目標の5.5%を大きく下回って景気減速が明らかになった。中国の労働人口はすでに減少しており、今後、高齢者数を上乗せしながら若年者数を減らしていく。この歴史的な構造変化により、習近平国家主席が進める「独裁強国」路線への逆風が強まるのは避けられない。問題は、国力のピークを迎えた新興大国が一転、迫り来る衰退を恐れると、他国に攻撃的になるという「ピークパワーの罠」が現実味を帯びてくることである。

 ●人口が減少、経済は減速
 中国の人口は2022年末、建国以来最少の出生数を主因として前年比85万人減の14億1200万人になった。中国はこれまで世界最大の労働人口をバネに、「世界の工場」として急速な経済発展を遂げてきた。しかし、巨大人口が縮小に転じると、少子高齢化という新たな重荷を背負う。
 同時に発表された昨年のGDP成長率3.0%は、新型コロナウイルスの世界的流行が始まった2020年を除くと、1970年代以降で最低だ。厳格な「ゼロコロナ」政策が生産と消費の足かせとなったほか、不動産バブルの崩壊、膨張する債務、米国による輸出規制など経済のデカップリング(切り離し)圧力が影響している。今後、経済活動が回復するとの見通しもあるが、中長期にはかつてのような高成長は望めない。急速な高齢化に対応する社会保障費がひっ迫し、迎えるのは悩める超老人大国としての姿であろう。
 日本経済研究センターは昨年末、米中の経済力が2033年にも逆転するとしていた予測を、中国が米国を抜くことはなくなったとの見通しに変えた。中国は人口減少に対処するため一層の構造改革を必要としている。しかし、習体制はトップダウンの政治支配を目指し、国内の反対意見を容赦なく押しつぶす。

 ●緊張増す台湾海峡
 ジョンズ・ホプキンズ大学のハル・ブランズ教授とタフツ大学のマイケル・ベックリー准教授によると、覇権国家を目指した新興大国は差し迫った衰退への危機感から、手遅れになる前に現状を打破しようと大胆な行動に出る傾向がある。両氏は2021年9月の米外交誌フォーリン・ポリシーの論文で、これが「ピークパワーの罠に向かいつつある中国の今」であるとする仮説を立てた。
 かつての帝政ロシア、ドイツ帝国、そして大日本帝国に共通しているのは、急速な台頭と衰退への恐怖であり、栄光への道が妨げられると結論づけたときに悲劇が起こる。中国の矛先は、習主席が「武力行使を排除しない」と繰り返す台湾へ向かい、米国を中心とする同盟国が対中抑止に失敗すれば、その代償はロシアによるウクライナ侵略よりも大きくなる。
 中国が「ピークパワーの罠」に陥る可能性がある以上、日本は防衛費をGDP比2%とする目標の下、反撃能力を確保することによって対中抑止を強化すべきであろう。歴史は、誤算や偶発が幾多の戦争を引き起こしてきたことを教えているからだ。(了)
 
 

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労働人口はすでに10年前から減少。中国もいよいよ超老人大国に。総人口が減ると米中GDP逆転は起きないだろう。するとピークパワーの罠に陥る、つまり衰退への不安が台湾侵攻の引き金になりかねない。日米は結束して抑止を堅固に。