韓国が朝鮮人戦時労働者問題の解決策を発表して、日韓関係が正常化に向かおうとしている。この問題で韓国が踏み出した機会を逃さず、日韓間の懸案を包括的に解決することは重要だ。韓国が要求したのは2019年の日本による輸出管理の厳格化措置の解除だ。日本は「大局的な見地」から官邸主導で譲歩したようだ。もちろん大局的見地は必要で、官邸が各省に譲歩を指示することがあってもよい。問題は譲歩の中身だ。「大局的見地」イコール「筋の通らない譲歩」ではない。
日本は譲れないものは何かを明確にした「軸」がなければ「無原則の譲歩」になる。譲れないものは「ルール重視」だ。そうした観点から、輸出管理での譲歩は禍根を残しかねない。
●輸出管理問題で二つの譲歩
日本の対韓輸出管理の厳格化措置について、韓国による戦時労働者問題の解決策の発表と同じ日、日本政府は「2019年以前の状態に戻すべく協議を速やかに行う」と発表した。これは二つの点で明らかに韓国に譲歩したものだ。
一つは輸出管理問題と戦時労働者問題のリンクだ。日本はこれまで、輸出管理の厳格化は戦時労働者問題への「報復措置」ではなく、別問題としていた。しかし、同じタイミングでの発表は別問題でないことを認めたようなものだ。
厳格化措置が取られた理由は、あくまでも韓国の輸出管理に問題があったためだ。ずさんな管理の取引が頻発する不適切事案もあった。また特別に簡略な輸出手続きを認める「Aグループ」の国(旧ホワイト国)とは緊密な意見交換が不可欠だが、韓国は対話に応じていなかった。こうした懸念が払しょくされない限り、厳格化措置を撤回すべきでない。
これは米国にとっても重要な点だ。米国は日韓関係の改善を強く求めているが、むしろ中国への半導体輸出規制を強化する中で、韓国にも輸出管理をしっかりさせないと、中国への横流しも懸念される。そのためにも日韓の対話を通じて韓国の輸出管理をきちんと確認することは重要だ。
二つ目の譲歩は「協議」という用語だ。輸出管理は国際的に各国が主体的に決めるもので、相手国との交渉事を意味する「協議」にはなじまない。だからこれまで日本は「対話」という表現にこだわってきた。
翌日の記者会見で西村康稔経済産業相はこう軌道修正している。
「輸出管理の見直しは、他国と協議を行う対象ではない。対話を行うことで韓国の輸出管理の実効性を見極め、日本として判断をしていく」
しかし「協議」とした発表文は明らかに日本が譲ったもので、問題だ。
●政権が代わっても堅持すべきもの
いずれの点も2019年の日韓首脳会談での対立点であった。当時の安倍晋三首相は「輸出管理当局同士の対話で問題が解決されるよう期待する」と発言して、日本の立場を明確にしている。
将来、韓国の政権が代われば手のひら返しのリスクが付きまとうのが日韓関係だ。だからこそ日本は政権が代わっても「ルールにこだわる原則」を堅持すべきだ。(了)