岸田文雄首相は21日にウクライナを電撃訪問した。先進7カ国(G7)首脳では最後となったが、先の大戦後、日本の首相として初めて戦闘が続く国・地域に足を踏み入れたことを評価したい。
日本の国会には、首相や閣僚が外国訪問する時には事前了解が必要との前近代的な慣習が存在する。同じく慣例となっている参院予算委員会基本的質疑への首相と全閣僚の出席の原則によって、林芳正外相がインドでの20カ国・地域(G20)外相会合出席を見送るという失態を演じた後だけに、今回、岸田首相が国会の事前了解なくウクライナを訪問したことは、因習を打破したという点で良い前例となる。
●中露独裁者との対比鮮明に
岸田首相は5月に開催されるG7首脳会議(広島サミット)で議長を務める。サミットにはウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで参加する。ウクライナを訪問しないままサミットに臨んでも、岸田首相の発言には何ら説得力を持たなかっただろう。危険を冒してでも首都キーウを訪問し、しかもロシアの一時的な占領により多くの民間人が殺されたキーウ近郊のブチャも訪れ慰霊したことは、岸田首相の発言に重みを与えるものだ。
訪問は中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領と会談していた時と重なった。「戦争犯罪人」として国際刑事裁判所から逮捕状を出されたプーチン大統領、ウイグル人などへの人権弾圧で批判を浴びる習近平主席という2人の独裁者がひざを突き合わせている時に、岸田首相がロシアの侵略と戦うゼレンスキー大統領と共同記者会見に望み、「美しい大地に平和が戻るまでは、日本はウクライナと共に歩む」と宣言した意義は大きい。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がツイッターで「素晴らしいことだ。G7議長国の日本はロシアの残忍で不法な侵攻から自衛するウクライナを支援する世界のリーダーだ」と称賛するなど、今回のキーウ訪問は欧米から高く評価された。
●殺傷力のある装備も供与を
ただ、課題も残る。日本政府が表明した北大西洋条約機構(NATO)信託基金を通じた3000万ドル(約40億円)の装備品支援は「非殺傷性」の装備品に限るとの制約を付けた。昨年12月に「国家安全保障戦略」など安保3文書を改定した際、武器を含む装備品の輸出ルールを定めた防衛装備移転三原則やその運用指針の見直しについては「検討する」にとどまっているためだ。
与党の一角を占める公明党が移転推進に慎重姿勢を取っていることもあり、見直しは4月の統一地方選後に先送りとなった。今回の岸田首相のウクライナ訪問を機に、早急に見直しを行い、殺傷力のある装備の供与も進めるべきだ。(了)