公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

細川昌彦

【第1058回】中国による水産物輸入規制に対抗せよ

細川昌彦 / 2023.07.24 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に対して、中国は日本からの輸入水産物への放射性物質の検査強化を打ち出した。これまでのサンプル検査から全量検査に切り替えたのだ。その結果、鮮魚などが税関で留め置かれる事態が発生している。さらに香港は海洋放出されれば輸入を禁止する方針も打ち出している。中国、香港向けは日本の水産物輸出の約4割を占め、最大の輸出先だ。事態が長引けば、深刻な影響は避けられない。
 日本は「妥当性を認めた国際原子力機関(IAEA)の報告を踏まえ、高い透明性をもって丁寧に説明していく」と反応した。しかし、科学的根拠に基づかない政治的な措置を意図的に取る中国に対して、科学的説明だけで効果を期待できるだろうか。また、日本は何ら対抗してこないと思われるのは、今後、様々な威圧的な措置を誘発しかねない。
 そこで当面の対応と根本的な対応の両方が必要となる。

 ●当面の措置とG7の活用
 中国の措置が検査手続きの恣意的運用であるだけに、当面の対応として同様の運用レベルで対抗すべきだろう。すなわち中国から輸入する水産物について日本も全量検査をすべきだ。中国の複数の原発が放出するトリチウムが福島の処理水の最大で6.5倍であることが判明しているだけに、合理的措置と言える。
 また、中国に輸出しているホタテなどの水産物の代替販売先も探し、米国、韓国、台湾などの協力を得てダメージを最小限にする努力も早急にすべきだ。
 その際、国際的なアピールも重要だ。とりわけ主要7か国(G7)は先般の広島サミットでこうした「経済的威圧」に対して共同で行動すべく「調整プラットフォーム」という枠組みを立ち上げることに合意した。まずは議長国の日本が主導して早急にこれを立ち上げ、本件を第1号のケースとしてG7各国と情報交換をして理解を得るべきだ。

 ●待ったなしの制度整備
 そのうえで今後への根本的な備えは別途必要だ。
 近年、中国は巨大な市場や供給力を武器に相手国を威嚇して政策変更を迫る「経済の武器化」を常態化している。最近でも新型コロナウイルス発生源の独立調査を求めたオーストラリアに対する大麦、ワインへの報復関税、台湾代表事務所を開設したリトアニアに対する通関拒否など枚挙にいとまがない。今後も中国によるこうした威圧は続くと見るべきだ。そして、運用面での対抗にとどまらず、ヒト、モノ、カネ、サービスなど多様な手段から選択する法律的な制度を用意しておくことが必要だ。
 しかし日本はG7の中で唯一、そうした対抗手段を持ち合わせていない。欧州連合(EU)、米国には独自に対抗できる措置があり、さらに対抗措置法案も準備している。これに対して日本は中国への刺激を避けて、制度を整備する「構え」にさえ及び腰だ。
 日本は標的となる可能性が高いにもかかわらず危機感がなく、呑気に構えている。そうした中で、今回、経済的威圧の標的となってしまった。この苦い経験で覚醒して、早急に制度を整備すべきだ。(了)