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織田邦男

【第1069回】中露朝連携で露呈する日本の安保戦略の欠陥

織田邦男 / 2023.09.11 (月)


国基研企画委員・麗澤大学特別教授・元空将 織田邦男

 

 昨年12月に閣議決定された国家安全保障戦略は、総合的な国力により安全保障を確保するという観点が強調されており、優れた戦略といえる。だが、残念ながら二つの欠陥がある。
 一つは我が国の核抑止戦略が欠けていることだ。安保戦略は全31ページの労作だが、核抑止については、たった2行の記述しかない。米国による拡大抑止の強化と非核三原則の厳守が書かれているだけだ。これではとても核抑止戦略とは言えない。
 二つ目の欠陥は中国、ロシア、北朝鮮の3正面に同時対応する事態が想定されていないことだ。中国については「最大の戦略的挑戦」であるとし、ロシアについては「欧州方面においては安全保障上の最も重大かつ直接の脅威」とし、北朝鮮については「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」とした。中露連携には「強い懸念」を表明したが、中国、ロシア、北朝鮮の3か国連携については言及がない。

 ●3正面作戦と核抑止戦略の欠落
 この欠陥を見計らったかのように今、危機が顕在化しつつある。ロシアは北朝鮮に接近し、ウクライナ戦争の長期化で不足する武器の供与を求め、見返りに北朝鮮は戦略原子力潜水艦、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、軍事偵察衛星などの技術を要求しているという。北朝鮮の金正恩労働党総書記は近くロシア極東部を訪れ、プーチン・ロシア大統領と会談する。ロシアと北朝鮮の軍事関係緊密化が進むと、今後、日本は中露朝の3正面対応を迫られる。
 台湾有事は日本有事である。台湾有事に合わせて朝鮮半島で北朝鮮が策動し、極東ロシア軍が呼応すれば、日米は台湾方面への兵力集中が難しくなる。
 ただ、北朝鮮は韓国との境界を画する38度線を通常戦力で突破する能力はもはやない。核ミサイルによる威嚇・恫喝と特殊作戦部隊による韓国社会かく乱が主になろう。ロシア軍も陸上兵力の主力はウクライナに派遣されているため、極東では航空、海上戦力による作戦と核による威嚇・恫喝が主になるだろう。
 それでも在韓米軍は身動きが取れなくなり、自衛隊も南方への兵力集中が難しくなる。更に、中露朝3か国が連携して核による威嚇・恫喝を実施すれば、核抑止戦略を持たない我が国は為すすべを持たない。尹錫悦韓国大統領は4月に訪米し、バイデン米大統領と「ワシントン宣言」を公表し、韓国への「拡大抑止」強化を米国に約束させた。日米間にはこのような宣言すらない。

 ●台湾侵攻抑止崩壊の恐れ
 金正恩氏のロシア訪問は、日本に3正面作戦と核抑止戦略を早急かつ真剣に構築すべしと迫っている。最大の懸念は、習近平中国国家主席が新しい状況に対応できない日本を「くみし易し」と判断し、台湾侵攻の抑止が崩壊することである。(了)