公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1079回】岸田首相は国家指導者失格か

有元隆志 / 2023.10.16 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 「テロ」を「テロ」と呼ばない岸田文雄首相は国家指導者として失格ではないか。そう思わざるを得ない「X」(旧ツイッター)への首相の投稿があった。イスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル襲撃を「強く非難する」としたが、「テロ」の表現を避けた。イスラエルの反撃でパレスチナ自治区ガザ地区でも多数の死傷者が出ていることに言及し、「深刻に憂慮しており、全ての当事者に最大限の自制を求める」と述べ、イスラエルにも自制を求めた。しかし、イスラエル・ハマス戦争は双方のバランスを取るような事態なのか。
 襲撃が起きたのは7日早朝(日本時間同日正午頃)。米英首脳が中東時間で7日のうちに反応したのとは対照的に、岸田首相が見解を出したのは襲撃から丸1日以上経過した日本時間8日夕のXが初めだった。遅れた理由について日本経済新聞は「周辺国の動きを探っていたとの見方がある」と報じた。

 ●「バランス外交」の夢想
 首相の投稿について説明した日本政府当局者は、イスラエルとパレスチナにパイプがある日本の強みを生かして双方に沈静化を働きかけるとメディアに解説。新聞各紙は「バランス外交模索」(朝日新聞)、「米欧と異なる対応」(産経新聞)と報じた。仲介役として「平和的解決」を目指せると本気で思っているのだろうか。岸田首相や外務省の一部官僚の単なる夢想である。どっちつかずの対応は誰からも信頼されない。
 イスラエルとパレスチナの対立には長い歴史的な背景があるが、岸田首相は襲撃をわが身に置き換えて考えることはしなかったのか。ある日突然、日本が国外から襲撃されて多数の国民が殺され、拉致されたらどうするつもりなのか。友好国から「最大限の自制」を求められたら反撃を思いとどまるのか。即座に応戦態勢を取り、人質を取り戻すため最大限の努力をするのが指導者の務めではないのか。

 ●存在感ないG7議長国
 そもそもハマスはパレスチナを代表する組織ではない。日本政府はハマスをテロリスト等に対する資産凍結措置の対象としている。結局、日本政府が今回の襲撃を「テロ」と非難するようになったのは11日になってからだった。
 主要7カ国(G7)メンバーの米英仏独伊5カ国が9日にイスラエル支持の共同声明を発表したが、G7議長国の日本の名前はなかった。岸田首相は5月に出身地の広島でG7広島サミットを開催した時点で、お役御免と思っていたのかもしれないが、年内まで議長である。「G7広島首脳コミュニケ」では「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持し、強化する」と謳った。岸田首相がそれを実現するための責任を果たせないようなら、一刻も早く退陣してもらったほうが国益になる。(了)