公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

有元隆志

【第1086回】岸田首相に「パッション」はあるのか

有元隆志 / 2023.10.30 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 これが岸田政権の終わりの始まりなのか。自民党の世耕弘成参院幹事長が10月25日の参院本会議代表質問で、「支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待する『リーダーとしての姿』が示せていないことに尽きる」と述べ、岸田文雄首相の指導者としての資質に公然と疑問符を突き付けた。

 ●党幹部が異例の苦言
 世耕氏は冒頭でこそ「首相支持」を表明したが「首相の決断と言葉に、いくばくかの弱さを感じざるを得ない」と苦言を呈した。世耕氏は首相に諫言できる立場だ。党幹部でありながら不協和音を公にしたことに対し自民党内からは非難の声が相次いだ。
 一方で、「首相に対する厳しい見方が党内に広まっていることをはっきり伝えた点では意味があった」と世耕氏を擁護する意見もある。内閣支持率が政権発足後最低水準に落ち込んでいるにもかかわらず、岸田首相が年内の衆院の解散・総選挙を狙っているとの見方も残っていることについて、選挙に打って出られるような状況ではないことを誰かが明確に言う必要があったからだという。
 岸田首相は23日の所信表明演説では、「ロシアによるウクライナ侵略」と明言したほか、北朝鮮による日本人拉致事件を一項目として取り上げ、「全ての拉致被害者の一日も早いご帰国を実現」するため、金正恩朝鮮労働党総書記との首脳会談を実現すべく、首相直轄のハイレベルでの協議を進める意向を示すなど、評価できる点もある。
 ただ、税収の増収分を「国民に還元する」と表明したものの、世耕氏が「還元という言葉が分かりにくかった。自分で決断せず、検討を丸投げしたように国民に映った」と指摘した通りだった。減税に触れず、経済対策の内容も多くは語らなかった。世耕氏が言ったように首相の「パッション(情熱)が伝わらなかった」。

 ●足りないリーダーシップ
 月刊「正論」10月号の連載「永田町事情録」では、岸田首相がライバル視する故安倍晋三元首相が「パッション」という言葉を使って理想のリーダー像を説いたことを紹介している。
 2017年3月、首相だった安倍氏は官邸を訪れた米ハーバード大学公共政策大学院(ケネディ・スクール)の学生たちから、「リーダーシップ」について聞かれると「国民に共感してもらえる目的を明示し、なぜそのことが大切かと説明する能力が求められる。そして結果を出すことに対してパッションを持つことだ」と答えた。
 岸田首相はよく使う「聞く耳」だけでなく、安倍氏が言うように「パッション」を持って説明し、結果を出さないと、世耕氏に同調する声は広がる一方だろう。(了)
 
 

関 連
国基研チャンネル

第460回 世耕質問は岸田政権の弱体化か

国際秩序が揺らいでいる今、岸田政権のリーダーシップが問われている。国会では身内の世耕幹事長から厳しい質問が。自民党の求心力が弱まっていると見られても不思議ではない。

櫻井よしこ 国基研理事長
瀬尾友子 国基研企画委員