公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1155回】露朝軍事同盟化に日本は備えよ

岩田清文 / 2024.06.24 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 6月19日、ロシアのプーチン大統領が北朝鮮の平壌を訪問し、金正恩朝鮮労働党総書記と首脳会談を行った。両首脳は、いずれかが攻撃を受けた場合、相互に支援する条項などを盛り込んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。
 プーチン氏はこの条約について、1961年に旧ソ連と北朝鮮が結んだ「友好協力相互援助条約」と同様の内容だと説明した。ただ、朝鮮半島有事にロシアが自動的に軍事介入する点は読み取れず、またプーチン大統領も「同盟」への言及は避けており、北朝鮮と完全に一体化することには微妙に一線を画していると言える。一方の金総書記は、両国関係が「同盟関係という新たな高みに達した」と歓迎し、対等な立場であることを強調している。

 ●懸念される核・ミサイル技術協力
 懸念されるのは、露朝の軍事同盟化により、北朝鮮の核・ミサイル技術の向上が図られ、我が国の安全保障がより困難になることである。新条約には、「防衛力の強化に向けた共同行動を取るための措置を準備する」との条文もあり、また、プーチン大統領は20日、訪問先のベトナムにおいて、北朝鮮への武器支援を「排除しない」と語っている。
 北朝鮮は、2021年1月に発表した「国防5か年計画」により、着実に兵器の近代化を重ねている。計画にある開発目標10項目のうち、1番目に掲げているのが、核弾頭の小型・軽量化、戦術核兵器化である。これは、抑止力としての戦略核兵器だけでなく、先制核使用を想定した戦術核の実戦配備を目指しているものと読み取れる。事実、金総書記は2023年9月6日、日本海で任務に当たるため新たに建造された「戦術核攻撃潜水艦」の進水式において、この潜水艦の価値について「核を大量に搭載し、先制・報復打撃ができる」と発言している。
 もちろん、過去6回の核実験をもって、核弾頭の大気圏再突入や小型弾頭化技術を獲得したかは定かではない。また「国防5か年計画」に挙げている、原子力潜水艦の保有はこれからの課題であり、加えて、極超音速滑空飛行弾頭の開発・導入なども目標に達したとは断定できないことから、北朝鮮が、これらの技術提供をロシアに要請することは言うまでもない。

 ●通常戦力による核抑止力強化
 今回の「包括的戦略パートナーシップ条約」締結により、北朝鮮は、ロシアの「兵器工場」として、ウクライナ侵略に使用される弾薬やミサイルを大量に供給するであろう。その見返りとして北朝鮮の欲しがる兵器技術がロシアから提供されれば、北朝鮮の攻撃力が増大していく。
 迎撃困難な通常および核攻撃能力の強化が進む北朝鮮の脅威に対し、日本としていかに国民の命を守り切るのか。通常戦力による我が国独自の核抑止力強化を含め、真剣に検討し、準備を進める必要がある。(了)