公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田村秀男

【第1159回】対中金融制裁、待ったなし

田村秀男 / 2024.07.01 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男

 

 ロシアは西側からの金融制裁をかわしている。ロシアの消費者物価上昇率は7%台だが、ウクライナ戦争前の8%台よりも低い。背景には中国からの支援がある。
 中国の対露輸出、輸入とも戦争前に比べて6割以上増だ。長大な中露国境を越え、あるいは第三国経由で、生活物資のみならず、半導体など軍民両用ハイテク製品や軍事関連機材、塹壕ざんごう掘削機械を供給する。
 ロシアは中国の人民元決済システムや国際金融市場・香港を利用して、外貨を獲得できる。この結果、ロシア通貨ルーブルの対ドル相場は昨秋を底に、徐々に上昇に転じている。円安が加速する一方の日本とは対照的だ。

 ●ロシアの戦費を支える原油高値取引
 西側の盲点になっているのは、中国がロシア産エネルギーを国際相場よりも大幅に高い価格で購入し、ロシアの軍事財源を潤していることだ。ロシア産原油は西側の制裁を受け、国際市場では同じ油種の北海ブレント原油よりも安く売られている。中国の貿易統計によると、ロシア原油の購入額は2022年3月から24年5月までの累計で1359億ドルに上る。筆者の計算では、国際市場価格でロシア原油を購入したなら1155億ドルになる。204億ドル、18%も国際相場よりも多く、中国は代金を支払っていることになる。
 ストックホルム国際平和研究所によると、前年比のロシア軍事費の増加額は2022年364 億ドル、23年71億ドルで、計435億ドルだ。22年3月から24年2月までの2年間での中国のロシア原油代金割増額は176億ドルである。つまり、ウクライナ戦費のうち40%以上は中国のロシア原油高値購入によってまかなわれると推察できる。
 この事実だけをとっても、中国の習近平共産党総書記・国家主席がロシアのプーチン大統領に約束した「限りない友情」の効果の絶大さが分かる。先進7カ国(G7)は先のイタリアでの首脳会議共同声明で、中国の対露支援に「深刻な懸念」を表明し、軍民両面で利用可能な物資の移転停止を要求したが、通常の物言いでは習近平政権には通用しないだろう。

 ●中国の泣きどころ
中国を抑える決め手は、軍事関連物資、石油などの対露決済に関わる中国の大手商業銀行に対し、ドル取引を打ち切ることだ。習政権が最も恐れるのはこうした金融制裁なのだが、バイデン米政権は米金融市場への悪影響を恐れて逡巡してきた。
 中国はロシア軍優勢のウクライナ戦局に乗じて、台湾、尖閣諸島から南シナ海にかけて攻勢を強めている。ウクライナ戦争はもはや対岸の火事どころではない。岸田文雄政権は、まなじりを決して米国の背を押すべきだ。(了)