公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第1170回】国民の信頼失った首相の退陣は当然だ

櫻井よしこ / 2024.08.19 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 再選の可能性を模索した岸田文雄首相が自民党総裁選出馬を断念した。評価すべき実績は少なくない。それでも不出馬の決断は正しいだろう。国民の信頼を回復できないまま、首相が低支持率に喘ぎ続けた理由は明らかだ。
 2021年10月の政権発足以降、岸田氏は衆参両院の選挙で圧勝し、次なる選挙の心配をせずに、日本をまともな独立国家にするための憲法改正や皇位継承安定化に心置きなく取り組める「黄金の3年間」を得た。だが、岸田氏は天が与えた貴重な3年を無駄にした。

 ●進まなかった憲法改正と皇位継承安定化
 我が国は今、かつてない危機の中だ。米国の力は依然として世界一だが、大国の権威はどこに行ったか。次期大統領が誰であれ、米国はかつての強くて権威ある国には戻れまい。米国が世界の秩序、安全、普遍的価値観に責任を持つ時代は戻らないとの覚悟が必要だ。
 百年に一度の大変化の前にあって、日米欧は最大の脅威である中国に備えなければならない。中国、ロシア、北朝鮮、イランは連携を強化し、戦後秩序の塗り替えを目論む。彼らは核使用を戦略に取り入れ、宇宙も深海も制覇しようとする。その上で中国共産党の価値観への従属を求めるだろう。この戦いに敗れた時、私たちは過酷な運命に直面する。
 歴史を振り返れば、我が国は白村江で百済と連合して、唐・新羅連合軍と戦った。蒙古襲来を防いだ。キリスト教伝来時、イベリア半島諸国との〝宗教戦争〟にも勝った。日清・日露戦争、大東亜戦争も戦った。対外的危機が生ずる度、我が国は軍事力と現実直視の才覚でこれを克服してきた。
 精神的には白村江の戦いのあと、国家防衛の決意を固めた。古事記、日本書紀を編纂して、中華世界と訣別した。それから1300年以上たち、私たちは改めて中華世界と対峙する時代を迎えている。にも拘わらず、我が国は歴史上初めて自らの持てる力を発揮しようとせず、第三国に国家の安全を依存する。連合国軍総司令部(GHQ)起草の憲法の下、自ら自衛隊を軍隊ではないと規定し、軍事力の正当な行使を困難にする警察法体系の下で、首相は非核三原則や専守防衛を強調し続けた。
 他方、国民に向かって首相は憲法改正を自分の任期内に実現すると誓った。我が国の国柄の基盤をなす皇室の皇位継承安定化のための法整備も再三公約した。だが一歩も進んでいない。首相の発言は自らの支持基盤を維持しようとするだけのものであった。その言葉にはもはや信を置けないと認識した保守層が離れ、ついに戻らなかったのは当然だ。

 ●次の指導者は国家再生に命を懸けよ
 この国難は憲法改正なくして乗り越えることは難しいが、首相は最重要の問題を先送りし続けた。世論にばかり気を取られ、眼前の課題にこだわり続けた。
 日本が直面する国家存続の危機の深刻さを認識できないのは、おそらく岸田氏が歴史観も国家観も欠落させているからだ。岸田氏の後継たる新指導者は、我が国の歴史を貫く自主独立の精神、道義国家としての価値観に基づき、日本国再生のため命懸けで憲法改正に取り組むべきだ。(了)