公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1192回】北朝鮮軍のウクライナ参戦の実態

西岡力 / 2024.10.21 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 北朝鮮軍がロシアによるウクライナ侵略戦争に参戦していることが、ウクライナと韓国の両国政府によって確認された。ウクライナのゼレンスキー大統領は10月17日、「ロシア軍は1万人の北朝鮮兵士を動員する準備を進めている」と発言した。ウクライナ文化情報省傘下の戦略コミュニケーション・情報安全保障センターは18日、北朝鮮兵がロシア極東の訓練場で装備品を受け取っているとする動画を公開した。韓国の国家情報院は同日、北朝鮮が11軍団所属の特殊部隊約1万2000人の派兵を決め、約1500人が8~13日、ロシア海軍の輸送艦でロシア極東のウラジオストクに移送されたと公表した。

 ●年内に1万人派兵
 私は既に6月24日の今週の直言「北朝鮮がウクライナ戦争に工兵派遣」で北朝鮮内部からの情報を元に、①北朝鮮軍のウクライナ戦争への参戦が予測されている②5月に工兵部隊約1000人がロシアに送られ、それがあったのでプーチン・ロシア大統領の6月訪朝が実現した③派遣部隊は今後1万人に増やされる計画で、体格の良い兵士の選別作業が進んでいる―と書いた。
 その後に入手した情報によると、5月初めに第1陣として3大隊1500人、8月に第2陣1500人が派遣され、10月上旬時点で第3陣として5000人程度が選抜を終えて待機していた。年内に合計1万人程度を派兵するという。第1陣と第2陣は私服を着てロシアが占領するウクライナ東部ドネツク州で工事を担当しており、戦闘には参加していない。ロシアは兵士1人当たり月に1500~2000ドルを払う。基本的にそのカネは派兵される兵士に支給されず、国家の資金になるという。
 それとは別に、ロシア軍の戦い方を見て北朝鮮軍の戦術に応用するために戦術習得将校団が開戦から継続して派遣されている。

 ●戦闘への投入を計画か
 以上の私の情報が正しければ、今回、韓国が移送を確認した1500人は第3陣の一部と見られる。極東の訓練場での映像ではロシアの軍服を支給されていたから、私服で工事を担当するのとは異なる任務をさせられると思われる。ロシア軍に偽装して実戦への投入が計画されている可能性がある。
 北朝鮮は昨年、特殊部隊の派兵を検討したが、ひそかに隊員の意識調査をしたところ、戦闘中に逃亡する者が多数出る恐れがあると分かって中止したと聞く。関係者は、戦死者が出るような戦闘に投入されれば、必ず大規模な脱走が起きるだろうと話している。ウクライナのメディアは既にロシア西部のブリャンスク、クルスク両州に展開した北朝鮮兵18人が脱走したという情報を伝えている。
 北朝鮮の金正恩総書記は、ウクライナ戦争の休戦前に、ロシアから原子力潜水艦、ステルス戦闘機、極超音速ミサイル、軍事衛星などの技術や現物を得ようとして焦っているという。ロシア側は北朝鮮とはあくまでも等価交換しかしないので、軍事衛星だけは譲渡したがそれ以外の先端兵器については提供を渋っている。金総書記は兵士の命と引き換えに得るカネで、それらを得ようとしている。(了)