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西岡力

【第1191回】石破内閣は歴史認識問題に取り組むのか

西岡力 / 2024.10.15 (火)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 国基研は繰り返し、歴史認識問題に政府として取り組めという政策提言を行ってきた。それを受けて安倍晋三政権で、首相官邸の官房副長官補室が歴史認識問題に取り組む体制ができ、菅義偉、岸田文雄政権でもそれが維持されてきた。具体的には、政治家である首相補佐官が担当に任命され、事務方として副長官補室が補佐官と連携しつつ、政府全体を統括する体制になっていた。

 ●国際広報体制の継承は不明
 平成28年1月に国基研は政策提言「歴史認識に関する国際広報体制を構築せよ」を公表し、それが安倍政権に受け入れられて上記の体制が生まれた。令和3年11月には岸田内閣にその体制を引き継ぐことを求める「歴史認識に関する国際広報体制を強化せよ」を公表した。翌年1月、当時の高市早苗自民党政調会長が国会で岸田首相に「事実関係に踏み込んだ体系的歴史認識の国際広報を継続、強化することは、日本の名誉と国益を守る上で必要だ。岸田内閣でも官房副長官補室は歴史認識の国際広報を担っているのか」と質問。岸田首相から「私の内閣においても、歴史認識に係る問題について、安倍内閣以来の体制を引き継いでおり、官房副長官補室を中心に、政府全体で、国際広報を含め、歴史問題に取り組んでいきたい」という答弁を引き出した。
 国基研は、石破茂政権がこの体制を引き継ぐのか注視しているが、石破首相からこの点についての明確な発信は今のところない。

 ●中国は「731部隊」で反日映画準備
 一方、歴史認識問題はいよいよ重要度が高まっている。靖国神社毀損事件、日本人学校生徒襲撃事件は中国との歴史認識問題が一刻の猶予も許されないことを示している。中国共産党は来年に向けて「抗日反ファシズム戦争勝利80周年キャンペーン」を準備している。生物兵器実験をしたとされる旧日本陸軍731部隊を題材に、日本軍国主義の罪を告発する映画を制作中で、来年全世界で上映する計画だ。
 令和3年の提言で私たちは「中国にも反論せよ。『戦前の日本はジェノサイドや人道に対する罪は犯していない』という事実を歴史広報の柱にせよ」と主張した。しかし、いまだにそれは実現していない。それどころか外務省のホームページは現在も、南京事件について「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」と書いて、中国が主張する数十万虐殺は事実ではないと反論していない。
 自民党は今回の総選挙公約(政策BANK)でわずか2行弱、「我が国の主権や名誉に関わる課題に毅然とした対応を取るとともに、歴史的・学術的な調査研究を進め、我が国の戦略的対外発信を強化します」と書いたのみだった。3年前の政策BANKでは「中国による軍事力増強や一方的な現状変更の試み、人権、香港、経済を巡る諸問題、韓国による国際法違反の状態や歴史認識等を巡るいわれなき非難など、わが国の主権や名誉、国民の生命・安全・財産に関わる課題に冷静かつ毅然と対応します」と約2倍の量を使い、韓国に対してだが歴史認識問題に取り組むことを明記していた。(了)