「反アベノミクス」が売り物だったはずの石破茂氏が先の自民党総裁選を機に「脱デフレ」を唱え、直ちに衆院解散、総選挙に打って出た。石破首相は自身の豹変が単なる付け焼き刃でないことを選挙戦以降、証明すべきだ。
石破首相は「デフレからの脱却を完全なものにする」「物価上昇を上回る賃金上昇を」と強調する。日銀の金融政策について「追加利上げの環境にない」と言うが、石破氏が利上げに強く固執していたことを知る市場を困惑させ、株価や円相場を不安定にしている。
●封印したアベノミクス批判
日本経済は1990年代後半以降、慢性デフレに陥り、家計は困窮化し、企業は国内市場に見切りを付け、中国など海外での投資と生産にシフトしてきた。この国難から脱するための手段がアベノミクスだった。アベノミクスは二度にわたる消費税増税がたたって、脱デフレを成し遂げられなかったが、石破氏はデフレの恐るべき側面に目を向けようとしなかった。
8月7日に出版した「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)で、アベノミクスとは一体何だったのかと問い掛けた。異次元の金融緩和によって国家財政と日銀財務が悪化したとか、低金利、円安、法人税減税で本来は退出すべき企業が生き残ったなどと非難したばかりではない。成長路線に疑問を呈し、「脱成長」は可能か、と問い掛けた。
経済成長なしに少子高齢化の日本の国民が幸せになるというのはマルクス主義者に多い空想でしかない。成長こそが子供たちを育て、将来の成長を可能にし、老後世代の暮らしを支える。同時に防衛力増強の財源を確保する。成長を持続させるためには教育、基礎研究、技術革新投資が欠かせない。政府が国債を発行して財政出動し、日銀がゼロ金利のカネをふんだんに供給するのは、将来の成長を確保するための先行投資なのである。
●本気度は財政で試される
石破政権の本気度が試されるのは、財政である。緊縮財政至上主義の財務官僚の執念はすさまじい。某財務省大物OBは岸田前政権について、「史上最悪のバラマキを行った。安倍政権のほうがまだましだった」と憤懣やる方ない。エネルギー補助、定額減税などをやり玉に挙げるのだが、財政支出の抑制と税収の大幅増を受けて来年度には基礎的財政収支(国債関連を除く財政収支)の黒字化が確実になっている。財務省はそれだけでは満足しない。
財務官僚は総選挙後に本格化する来年度予算編成で国債利払い費を含めた財政収支の黒字化を画策している。石破氏は毅然として圧力をはね返せるだろうか。(了)