ウクライナ戦争開始から3年が経過した。いまだ戦争の終結が見いだせない中、トランプ米大統領就任から1か月で、停戦に向けた交渉が大きく動きだした。2月19日のFOXニュースによれば、トランプ政権は「3段階」計画により、停戦交渉を進めようとしている。まず4月20日に停戦宣言をし、戦闘を止める。第2段階として、プーチン・ロシア大統領の希望どおりにウクライナに大統領選挙を実施させる。最後に時期は不明だが、和平協定を結ばせるというものだ。
これまで、停戦の実現には長い日数を要すると見られていたが、この3段階計画が事実とすれば、いったんは戦闘が収まる可能性はある。ただし、その後の和平協定に向け、ウクライナ、ロシア両国が合意に至るには課題が残ったままだ。
●驚愕の戦後秩序軽視
例えば停戦ラインを、現状の戦闘が行われている前線とするのか、あるいはロシアが望む東部・南部4州の州境まで西に押し出すのか。またウクライナがこだわる戦後の安全の保証を、英仏軍等のウクライナ駐留に頼るのか、あるいはロシアが将来再び侵攻した際に自動的にウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させることによりロシアを抑止するのか。さらに、ロシアの要求どおりウクライナのゼレンスキー大統領が大統領選挙の実施を了承するのかなどが課題として挙げられる。
前線の戦況がロシアに有利である上、今後12~18か月はロシアに戦争継続の余力があるとされている状況において、プーチン氏が交渉妥結を焦る必要はない。逆にトランプ氏は、米大統領選挙を通じて主張してきた停戦の早期実現に焦り、ゼレンスキー氏に和平を押し付けてくるだろう。
トランプ政権が、この約1か月間、停戦へ向けて見せてきた姿勢は、ウクライナはもちろん、欧州、世界をも驚愕させた。それは、トランプ氏が侵略者であるプーチン氏と握手し、力による現状変更を認めるという、戦後80年続いてきた国際秩序を軽視するものである。加えてこれまで最強の同盟と言われてきたNATOの信頼をも裏切るものであり、米欧分断の始まりとも言える。この背景に、米国にとって唯一の競争相手中国と対峙するためロシアと手を結ぶという戦略が仮にトランプ氏にあったとしても、民主主義陣営のリーダーとして取るべき姿勢ではないだろう。
●日本の安保戦略見直しが急務
法による支配という価値観よりも、自国の利益を優先するのがトランプ氏だとの現実、そしてウクライナ戦争を通じて明らかになった中国、ロシア、北朝鮮3カ国の緊密な連帯の現状を直視した上で、日本は、直ちに国家安全保障戦略の見直しを進めるべきである。その際、トランプ氏をして、日米同盟の強化こそが米国の利益にもなると認識させる知恵と努力が欠かせない。(了)