なぜ日本政府はトランプ米大統領に対し、明確に「反対」と言えないのか。トランプ氏は米国に輸入される自動車に新たに関税を課すことを検討しているとして、「税率は25%前後」との見通しを示した。導入された場合、米国に多くの自動車を輸出している日本が被る影響は深刻だ。武藤容治経産相は早期に訪米し、米政府に対し、鉄鋼、アルミニウム製品とともに自動車への関税措置の日本への適用除外を申し入れる方針だが、ただ「お願い」するだけでは意味はない。
武藤経産相は18日の記者会見で、今後の方針について「自動車産業の重要性を踏まえて適切に対応していきたい」と述べるにとどまった。岩屋毅外相も15日、ドイツ・ミュンヘンでルビオ米国務長官と短時間意見交換した際、自動車への関税について「問題提起」するだけだった。
●日米貿易協定に違反
日本は海外から輸入する自動車に関税をかけていない。だが、トランプ氏は米国車が日本で売れないのは「日本が米国車を受け入れていない」からだと信じ込んでいた。安倍晋三元首相は首脳会談で何度も説明し、2019年9月の首脳会談では日米貿易協定を最終確認し、共同声明では「協定が誠実に履行されている間、協定及び共同声明の精神に反する行動を取らない」ことが明記された。安倍元首相は「共同声明の内容が日本の自動車・自動車部品に追加関税を課さない趣旨であることは私からトランプ大統領に明確に確認をし、トランプ大統領もそれを認めた」と強調した。
トランプ氏が自動車に追加関税を課すことになれば、協定違反になる。当時の交渉に携わった元日本政府高官は「もし米側が自動車関税を一方的に引き上げるならば、日本側としては協定自体の破棄を米側に迫るべきではないのか。協定で恩恵を受けている米国の農業者はどう反応するだろうか」と問いかける。
日本商工会議所の小林健会頭は21日の記者会見で、日本政府に「反対だと明確に示して交渉してほしい」と求めた。その通りであろう。政府・与党内から協定の破棄も視野に入れるべきだとの声が起きないのは、不思議なことだ。
●石破首相は直談判を
石破茂首相は7日に行われた日米首脳会談でのトランプ氏の印象について、「これから先、かなり落ち着いてじっくり話ができるなという印象を持った。相性は合うと思う」(9日のNHK番組)と話した。トランプ氏は「シンゾーとの友情があるから自動車に関税をかけられなかった」と2018年9月の首脳会談で語った。石破首相も「相性は合う」との自信があるなら、いますぐにもトランプ氏に電話し、直接掛け合うべきではないか。(了)