10月4日投開票の自民党総裁選では、5人の候補が高物価対策や賃上げを訴えるが、石破茂政権を見れば明らかなように、国内経済を力強い成長軌道に乗せない限り、空念仏に終わる。経済再生を達成する具体的な道筋を示せないようでは、国家のリーダーになる資格はない。
●財務省の言いなりの自民総裁候補
候補者中、高市早苗前経済安全保障担当相を除けば、経済の要の財政について、財務省主計局が示すシナリオにおおむね従っている。財務省は積極財政と消費税減税を言わせないために画策してきた。殺し文句は「政府負債」と「財源難」だが、その論拠はすでに崩壊している。先週の本欄(第1290回)で指摘したように、日本は主要先進国ではすでに財政最優等生になっており、財政の健全度を示す基礎的財政収支は来年度、三十数年ぶりに黒字化が確実な情勢だ。
ところが、石破政権は政策経費を削減すると同時に、税収増加分を民間に還元しない。財政緊縮規模は2021年度から24年度の合計で42.4兆円、25年度の当初予算ベースで13兆円に上る。これこそが、国内需要を奪い、実質賃上げ率をマイナスにし、国内の設備投資を停滞させて、実質経済成長率をゼロ%前後にとどめる元凶だ。緊縮財政路線を廃棄しない限り、企業は経済再生のカギとなる国内向け設備投資と人的投資に後ろ向きになり、代わりに対米、対中など対外投資へと走る。財政余力を内需に使う絶好のチャンスが到来しているのに、みすみす逃す者がリーダーに選ばれるようでは、自民総裁選の意味はない。
●真価問われるトランプ氏との初会談
自民総裁選後、国会の首班指名も終えている10月下旬にはトランプ米大統領が来日する。トランプ氏は、米国の財政赤字と対外負債の拡大という制約の中、膨張する中国に対抗するため、米製造業復権に執念を燃やす。特に日本からの投資を強く求め、両国政府は9月初旬、トランプ氏が選ぶ米国の巨大プロジェクトに日本が今後3年半の間に5500億ドル(約80兆円)を投資する覚書を交わした。日本は国内投資を萎縮させる窮乏政策をとりながら、対米投資を従来の3倍に増やすという現金自動支払機(ATM)同然の役割を求められる不平等条約だ。
トランプ氏と会う日本の新リーダーが心すべきは、日本の対米投資が経済安全保障のみならず日本産業活性化につながらなければ、持続的な対米投資拡大にならないと率直に伝えることだ。前提は中国の脅威への対抗に欠かせない日本自身の経済再生戦略である。それを欠けばトランプ氏の耳に刺さらないだろう。(了)




