台湾の名門、国立政治大学に「安倍晋三研究センター」が設立された。故安倍晋三元首相の外交戦略「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP= Free and Open Indo-Pacific)や経済政策「アベノミクス」などを研究対象とし、日本と台湾の学術交流や次世代の人材育成を目的としている。中国による軍事的、経済的威圧や影響力工作が強まる中で、民主主義、法の支配、自由といった価値観を共有する日本と台湾の間で、それらの価値観を発展させる場ができた意義は大きい。
●日台交流拡大に意義
9月21日に台北市内で行われたセンターの設立式に出席した台湾の頼清徳総統は挨拶の中で、安倍氏の誕生日であり「国際平和デー」でもあるこの日にセンターが発足することの重要性を強調した。頼総統は安倍氏が2021年12月のシンポジウムで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と述べたことに言及し、「われわれが中国の軍事拡張に直面しながら今日も平和を享受できているのは、(FOIP構想など、中国が軍事的手段を選ばないよう、自制を促す取り組みを訴えた)安倍氏の大局観のおかげだ」と謝意を示した。
安倍氏がFOIPを提唱したのは2016年8月のアフリカ開発会議で、この構想は米国をはじめ多くの国や地域で賛同されている。FOIPの理念に台湾を組み込むことは、中国による台湾侵攻や南シナ海での強引な行動に対抗する国際的な枠組みづくりの一環といえる。日本と台湾には国交はないが、センターと日本の大学やシンクタンクなどの意見交換を通じて、台湾有事における日本や米国の役割についての議論が深化することを期待したい。
頼総統をはじめ来賓の挨拶では、安倍氏が台湾で起きた地震の支援や新型コロナウイルス流行の際のワクチン提供、中国から検疫を口実に輸入が禁止された台湾産パイナップルの購入で主導的な役割を果たしたことが紹介された。台湾でセンターが設立されることは、日本と台湾の友情を確認し、強化するシンボルにもなるだろう。
●安倍氏の弟子は奮起を
来賓として出席した安倍昭恵夫人は2022年7月の安倍氏の葬儀で「政治家としてやり残したことはたくさんあったと思うが、本人なりの春夏秋冬を過ごし、種をいっぱいまいた。それが芽吹くことでしょう」と述べ、後輩の政治家たちに期待を示した。だが、旧安倍派に所属した国会議員たちは「政治とカネ」の問題の後遺症からいまだに立ち直れていない。
安倍氏が亡くなった後の国際情勢をみると、9月3日に北京で行われた軍事パレードに中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記がそろい踏みするなど、日本を取り巻く安全保障環境は急速に悪化している。「政治とカネ」の問題では党の処分も受け、衆院選で有権者の審判も受けた。これ以上萎縮する必要はなく、安倍氏の遺志を継ぐため粉骨砕身すべきであろう。(了)




