公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第1316回】ゴリアテの圧力はしなやかに打ち返せ

湯浅博 / 2025.11.25 (火)


国基研企画委員兼研究員 湯浅博

 

 巨人戦士ゴリアテを怒らせた日本は、中国の威圧をしなやかに打ち返す柔軟対応戦略で向き合うべきだろう。旧約聖書の物語では、羊飼いの青年ダビデが応戦に使ったのは、手元にある投石縄の一撃だった。高市早苗政権はゴリアテ中国が振り下ろす大槍をかわしつつ、手元の対中抑止力を着々と強化すべきだ。中国の軍事的圧力に対しては、逆にこれを利用し、歴代政権ができなかった懸案の安全保障体制強化を実現する戦略的好機ではないか。

 ●日本が取るべき柔軟対応戦略
 中国の台湾奪取作戦は、台湾を経済的、外交的に追い込み、中国との交渉以外の選択肢を遮断することで始まる。第2段階の軍事的併合は台湾の後ろで構える米国の動向に左右される。そのトランプ米政権の台湾への関与は弱体化している。
 しかし、日本の高市政権の誕生は、台湾の孤立を狙う中国にとって戦略環境の変化に映るだろう。習近平国家主席は新首相を「対中強硬派」「親台湾派」と警戒し、就任時に祝電さえ送らなかった。しかも、高市首相は日中首脳会談直後に台湾の林信義元行政院副院長と会談し、にこやかな対面がSNSで拡散され、習主席はメンツをつぶされたと感じたか。
 中国は、高市首相が11月7日の国会で台湾有事は日本の「存立危機事態」になり得ると指摘した機会をとらえ、小事を大事に変える決定をした。「反高市」キャンペーンは、薛剣・駐大阪総領事によるX(旧ツイッター)への異常な脅迫の書き込みで始まった。まるで、首相への殺害予告のような野蛮なレトリックは、まともな外交官の使う言葉ではない。ただ、薛氏の国外追放は「行動対行動」の理由を与え、中国が仕掛けたワナであるかを見極める必要がある。追放されれば薛氏は英雄視され、反日の象徴として国内の引き締めに利用されるだろう。
 習政権は、高市首相が政権基盤を確立する前にその力を削ぎ、日本国内の「反高市」勢力を活性化させることを狙う。巨大市場を持つ中国には、ハイテク産業に不可欠なレアアース(希土類)の輸出規制をはじめ対日制裁カードが豊富にある。従って、ゴリアテをかわす日本の柔軟対応戦略は、状況に応じて「抑止と防衛」「危機管理」「関与と協調」の3層モデルを駆使することが妥当だ。

 ●日本人拘束ならスパイ防止法制定を
 中国人観光客の日本旅行の「自粛」という名の威圧に対しては、オーバーツーリズムの解消に役立つ側面を発信する。日本産海産物の輸入規制に対しては、今後も繰り返される経済関係のデカップリング(分離)に備えて他の販路を拡大したい。中国国内で日本人が拘束される事態が発生した場合には、間髪入れずに日本のスパイ防止法の制定に着手すべきだ。
 そして何よりも、手元に準備する安全保障上のツールを整備すべきだ。与党が開始した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保関連3文書の見直しや、防衛費の増額、国家情報局の設置は淡々と進めていく。そして、中国が制裁レベルを上げてきたときの王道は、憲法改正の動きを加速させることだ。(了)