公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1320回】トランプ新戦略と日本の針路

岩田清文 / 2025.12.08 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 米国の国家安全保障戦略(NSS)が公表された。名称こそ「戦略」だが、脅威に関する情勢分析は極めて少なく、ロシア・ウクライナ戦争への言及はわずかで、北朝鮮には一切触れていない。権威主義国に対する批判はなく、自由民主主義陣営のリーダーたる米国のイメージはついえてしまった。この文書は「戦略」というより、経済・貿易に重点を置く第2次トランプ政権の外交方針を示す「政策」と位置づけるのが妥当だろう。

 ●「モンロー主義」の再来
 注目されるのは、「モンロー・ドクトリンを改めて主張し実施する」との一文である。これは、欧州大陸とアメリカ大陸の相互不干渉を唱えた第5代モンロー大統領の宣言の現代版として、米国が欧州など他地域への関与を抑え、西半球(南北アメリカ)の秩序を米国の主導で維持する姿勢を示すものである。その延長線上で捉えれば、日本を含むアジア地域への米国の関与度がどうなるのかが、日本にとって極めて重要となる。
 台湾については、「台湾海峡における一方的な現状変更は支持しない」と従来の政策維持を表明している。台湾を巡る紛争抑止の方策として、「理想的には軍事的優位の維持が優先事項」とし、軍事的優位を保つことの重要性を指摘しつつも、米軍単独では、それが難しい現実を示している。この観点から、米国として台湾を含む第1列島線への侵略抑止のため米軍を再構築する意欲を示すと同時に、日本を含む同盟国に対し防衛費増額と米軍との連携を要請している。
 一方、中国に関する記述は控えめだ。2022年のバイデン政権の国家安全保障戦略が、中国を「最も重要な地政学的挑戦」と位置づけたのに対し、今回は中国の貿易慣行を批判しつつも「中国との相互に利益のある経済関係」への期待をにじませている。さらに2022年の戦略で何度も指摘された「ルールに基づく国際秩序」という言葉もほとんど見られず、経済重視・対立回避の姿勢が明確だ。トランプ政権が中国を「敵」というより「商売相手」と見ていることの表れだろう。
 
 ●求められる日本の自立と対米説得
 ウクライナ和平でプーチン大統領寄りの立場を取るトランプ氏が、台湾有事でも経済協調を優先しかねないとの懸念は拭えない。日本は、この文書が示唆する米国の「アジア関与の限界」を見据え、独自の自立性ある防衛力の強化を急がねばならない。その上で、米国に対し、力による中国抑止の不可欠性を粘り強く説き続ける責務がある。同盟とは、依存ではなく相互の責任である。トランプ新戦略は、その厳しい現実を突きつけている。(了)