公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第85回】エネルギーについて冷静な議論と見通しを

遠藤浩一 / 2011.04.18 (月)


国基研理事・拓殖大学大学院教授 遠藤浩一

4月17日午後、東京電力の勝俣恒久会長は福島第一原子力発電所の事故収束に向けた工程表を発表し、原子炉の冷却機能を本格的に復旧させ安定した状態を回復するまでに6~9か月の期間が必要だとの見通しを示した。

一定の見通しが示されるやうになつたこと自体は、事故処理の前進を示すものと受け止めていいだらう。命懸けで作業を進めてゐる現場の皆さんに、一国民として満腔まんこうの敬意を評したい。

与野党政治家の放言
菅直人首相は工程表作成を東電に対して強く求めたとされるが、そんなことは当然で、むしろ首相自身が、直接国民に向かつて説得力あるメッセージを発することが肝腎だ。国家の指導者が示すべきは、日本経済復興の前提であり国防・安全保障に影響するエネルギー供給体制をどう再構築するか、である。

世界中がパニックを起こすやうな事故が発生したのだから、国民心理が動揺したのはいたしかたないが、事故直後、与野党の政治家が前のめりになつて「エネルギー政策の見直し」を口走つたのは如何なものか。

3月17日に谷垣禎一自民党総裁が「原子力政策を推進することは難しい状況になつてゐる」と発言すると、翌18日、枝野幸男官房長官は「谷垣総裁の発言は至極当然」と呼応した。こんなときだけ与野党の息がピタリと合ふ光景に、め息が口をいて出る。

確かに、低コストを確保するためにリスクをことさら甘く想定し、安全面を軽視してきた(と言はれても仕方がない)従来型の原子力政策をこのまま推進させるわけにいかない。これまでとは比較にならないくらゐ安全確保にコストと労力をかけるべきだといふ趣旨での発言ならばいいが、彼らの放言は「原発怖い」といふ国民感情にさお差した軽薄なパフォーマンス以外の何物でもない。

原発からは撤退できない
わが国は原発から撤退すべきではないし、できない。第一に、原発抜きでは電力供給のベストミックス(最良の配分)は想定できず、よつて現在の不安心理に乗じて脱原発を進めるならば電力の供給不足が慢性化し、日本経済にも国民生活にも深刻な影響を与へる。

第二に、石炭、石油、液化天然ガス(LNG)など化石エネルギーへの依存をこれ以上高めるのは供給構造の不安定化を加速し、二酸化炭素(CO2)削減問題にも対応しにくくなり、膨大なコスト増となる。

第三に、日本が前のめりに脱原発を進めたところで、他の諸国は日本の事故を横目ににらみつつ着々と原発を造るだらう。現にBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は原子力発電の推進を宣言してゐる(「三亜宣言」、4月14日)。

今回の事故の教訓は、当事者たる日本こそがかすべき立場にある。核兵器を持たぬわが国が原発から撤退したならば、国家安全保障政策としての核管理技術においても決定的な遅れを取ることになる。

議論すべきは原発そのものの是非ではなく、事故の教訓を活かしていかに安全性を高めるかである。指導者は、さうした大局的な視点を提示しなければならないのだが……。(了)

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第85回:エネルギーについて冷静な議論と見通しを(遠藤浩一)

 

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