イランによるホルムズ海峡の実質的閉鎖は、日本のみならず東南アジア全体のエネルギー安全保障を揺るがしている。
日本政府が国内対策として、石油の民間備蓄義務量を15日分引き下げ、さらに国家備蓄石油を当面1か月分放出すると決定したのは当然である。加えて、補助金と予備費の活用により、ガソリン小売価格を1リットル当たり全国平均170円程度に抑える措置を講じたことも、国民生活と経済活動を守るうえで適切であった。
しかし、危機管理は国内対策だけでは完結しない。日本は自国の需給安定を確保したうえで、石油備蓄のごく一部を近隣国支援に戦略的に活用することも検討すべきである。
●検討すべき比への緊急融通
東南アジア諸国の中でも、特にフィリピンは石油の98%を湾岸地域からの輸入に依存する脆弱さを露呈し、国家エネルギー非常事態を宣言した。日本企業の生産網や物流網は東南アジアの国々と深く結びついており、近隣国の燃料不足は港湾、輸送、発電、サプライチェーンを通じて、やがて日本の物価や供給網に跳ね返る。
しかも国際統計ベースでは、日本の石油消費量は1日約314万バレル、フィリピンは約47万バレルであり、日本の1日分はフィリピンのおおむね1週間分に相当する。国家備蓄は無論、国民生活を守る最後の砦であり、軽々しく外国に供すべきものではない。だが、日比間の石油消費量の比較は、日本がごく限られた余力を戦略的に用いることで、近隣国が急場をしのげる可能性を示している。
日本は、備蓄放出によって国内の需給安定を確保しつつ、数日分だけをフィリピンへ融通し、後日返還を受ける短期支援を検討したらどうか。これは慈善ではなく、地域の市場混乱を抑える危機管理そのものだ。
●求められる戦略的思考
もっとも、現行の石油備蓄制度は本来、国内の供給危機への対応を主眼としており、他国への直接融通を行うには、政府内での法的整理や運用面の慎重な検討を要する可能性が高いことは言うまでもない。
しかし、今求められているのは、国内のみに目を向けるのではなく、近隣国の安定をも支える戦略的思考である。中国が東南アジアとのエネルギー協力を外交カードとして使おうとする中、日本が供給網を支える意思を示すことは、地域における信頼と影響力を保つうえで重要である。
日本の石油備蓄の一部を戦略的に活用することは、経済安全保障上の抑止力にもなり得る。内向きか国際協調かという単純な二者択一ではなく、自国の安定を守りつつ近隣の安定にも資する政策を構想できるか、日本国家としての戦略性が問われている。(了)





