公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

江崎道朗

【第1367回】現行の憲法改正推進体制では不十分だ

江崎道朗 / 2026.05.11 (月)


国基研企画委員・麗澤大学特任教授 江崎道朗

 

 自民党の高市早苗総裁(首相)は、来年の党大会までに憲法改正案を取りまとめる意向を示している。しかしながら、与党内の合意形成は前途多難だ。自民党が第9条改正について「自衛隊明記」案を掲げる一方、連立関係にある日本維新の会は「第9条第2項の削除および国防軍創設」案を主張しており、両者の隔たりは小さくない。
 自衛隊の明記か、それとも第2項削除と国防軍創設か。憲法改正の発議には、衆参両院においてそれぞれ3分の2以上の賛成を要する。現状において、自民党および維新の会は参院で過半数を確保していない以上、公明党等の賛同を得やすい自衛隊明記案を採るべきだとの意見が、自民党内では優勢であるとも伝えられる。
 しかし、圧倒的多数を背景にした安倍晋三政権下においてさえ、同案に基づく改憲論議は実質的な進展を見なかった事実は重い。

 ●軍事的知見欠く衆参法制局
 国会に憲法調査会が設置されたのは平成12(2000)年であり、具体的な改正条文案の起草を担う憲法審査会が始動したのは平成23(2011)年のことである。それから既に15年が経過しているにもかかわらず、自衛隊明記案に基づく条文改正案すらいまだ作成されていない。その理由は、一部野党の反対にとどまるものではない。
 第9条改正を実現するためには、少なくとも3点の準備が不可欠である。すなわち、第一に「条文改正案」、第二に条文の解釈を統一・明確化するための「想定問答集」、第三に防衛省設置法や自衛隊法の改正を含む「関連法の改正案」である。
 ところが、衆参両院の憲法審査会事務局を担う法制局には法学の専門家こそ揃っているものの、軍事・外交分野の専門的知見は極めて乏しい。加えて、これら法制局は内閣官房国家安全保障局や防衛省などと連携して法案を策定する体制にはなく、政府の公権解釈を担う内閣法制局との緊密な協働関係も確立されていない。その結果、現下の軍事的課題を踏まえた想定問答の整備や、自衛隊法等の具体的改正案の策定は困難なのだ。
 つまり、現行の憲法審査会体制では、両院の法制局が条文の文言修正といった形式的作業には対応し得ても、厳しさを増す国際情勢や政府・防衛省の知見、自衛隊の実態を踏まえた実質的かつ包括的な制度設計には到底及ばないのだ。ちなみに自民党憲法改正実現本部のスタッフも僅か数名しかおらず、世界標準の軍事的知見を取り入れる体制ではない。

 ●内閣に「憲法対策室」設置せよ
 したがって、第9条改正に真摯に取り組むのであれば、国会における条文案作成と並行して、内閣に「憲法対策室」(仮称)を新設し、想定問答集および関連法改正案を一体的に策定する体制を整備すべきであろう。
 憲法改正は、国家の根幹に関わる重大な営為である。議院内閣制を採る我が国においては、国会と内閣が緊密に連携し、実効性と整合性を備えた改憲を推進するための制度的基盤の確立が強く求められる。(了)