フィリピンのタガログ語で「肩を並べる」を意味する多国間合同軍事演習「バリカタン」が、今年は従来と異なる重みを帯びて終わった。4月20日から5月8日まで、フィリピンのルソン島やパラワン島などで行われた演習には、日米比を軸に豪州、カナダ、フランス、ニュージーランドも加わり、過去最大規模の1万7000人超が参加した。規模の大きさ以上に重要なのは、これが単なる形だけの演習ではなく、南シナ海と台湾・フィリピン間のルソン海峡を見据えた実戦的な演習へと質的に変化したことである。
●第1列島線防衛へ自衛隊が実弾射撃
その象徴が5月6日、陸上自衛隊による88式地対艦誘導弾(SSM)の実弾射撃だ。ルソン島北部のパオアイ海岸から発射された2発のミサイルが、約75キロ沖の退役艦「BRPケソン」に命中した。自衛隊がバリカタンに本格参加したのは今回が初めてであり、日本の沿岸防衛用対艦ミサイルがフィリピンの地で実射に成功した意義は大きい。米国の「国家防衛戦略」が掲げる第1列島線(日本列島―台湾―フィリピン)の共同防衛態勢が具体的な形をとった瞬間だった。
今回の射撃を自衛隊の自己完結的な行動として見るべきではない。米側報道によれば、演習全体を通じて米軍の無人対艦ミサイルシステム(NMESIS)や高機動ロケット砲システム(HIMARS)、フィリピン軍の対艦ミサイル、そして陸自のSSMが連携する多国間対艦ミサイルネットワークが初めて試された。
公開情報の範囲では、米軍が陸自の射撃に際し目標情報を直接付与したとは確認できない。だが、フィリピン軍は日米比がセンサー情報を共有することで「真に一体化した戦術状況を構築できる」と説明しており、少なくとも射撃における3カ国の連携が現実のものになったことは確かだろう。
●戦略的重要性を認識する中国
中国外務省報道官は「日本が海外で攻撃型ミサイルを発射したことは自衛の範囲を超えている」と強く批判した。だが、この過剰反応こそが、今回の射撃の戦略的な重さを逆に証明している。第1列島線で中国の力による一方的な現状変更を許さない「拒否能力」を日米比が共同で示したことにほかならないからだ。
日比両国の部隊間協力を促進する円滑化協定(RAA)の発効を受けた自衛隊の本格的な演習参加は、日比防衛協力を新たな段階へと押し上げた。演習と前後して装備移転協議も進み、フィリピンのテオドロ国防相は相互運用性の向上への期待を明言した。演習の成功は、今後の防衛装備移転や運用面での協力をさらに後押しするはずだ。第1列島線は今、地図上の概念にとどまらず、日米比が「肩を並べて守る」意志と能力のラインとして、歴史に刻まれた。(了)




