公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第105回】外交・防衛軽視政権の船出

田久保忠衛 / 2011.09.05 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

自民党よりも程度の低い田舎芝居を二幕も観なければならない破目に陥り、三幕目が始まったばかりだから、心からの拍手ではなかろう。が、4日の新聞各紙に載った野田内閣の支持率は、日経が67%、読売が65%、共同通信が62%、朝日が53%で、新内閣はおおむね好感をもって迎えられているようだ。低姿勢で国民のために汗を流すと述べた首相が一般の国民に受けたのだろう。

政治家も世論も世界水準以下
去る5月に訪米したイスラエルのネタニヤフ首相は米上下両院合同会議で50分足らずの演説をしたが、その際、何と29回のスタンディング・オベーション(総立ちの拍手)が起きた。イスラエル・パレスチナ間の難交渉に関する米世論を一気に変えてしまうほどの大演説と、日本の最高指導者の話し方を比較する気はさらさらない。だが、まことに残念ながら、政治家も世論も水準は世界と日本の間に大きな差ができてしまった。

そもそも民主党は思想、信条を全く持たない人々も含めた政治家の集団だから、党綱領を作れない。選挙目当てにおいしいメニューを無責任に並べた「魂」のないマニフェストだから、修正を余儀なくされる。

代表選での野田佳彦、海江田万里両氏の対決は、マニフェストを変えるか変えないか、増税に賛成か反対かなどの政策の対立に、政局が絡んだ複雑な争いだったのではないか。ここで取りあえずたがを締めないと、大氾濫を引き起こす。

党内融和を政策に優先
野田首相が「ノーサイドにしましょう」と言った途端、「党内融和」「一致団結」などの掛け声が起きた。党が生き延びるための本能だ。だから、信条や政策はどうでもよくなる。

日教組に今も大きな影響力を及ぼす輿石東氏に、カネと公認権を握る幹事長のポストを与える。外国人参政権賛成派の議員連盟「永住外国人法的地位向上連盟」設立時のメンバー8人が閣僚に名を連ねる。首相は環太平洋戦略的経済連携協定(PTT)への日本の参加に乗り気なのに、鹿野道彦農水相は反対だ。マルチ商法関連業界との関係を疑われている山岡賢次氏は何と国家公安委員長だ。一川保夫防衛相は「安全保障に関しては素人だが、これが本当のシビリアン・コントロール」だとのたもうた。

箱庭の中でオママゴトに熱中している間に、東シナ海、南シナ海、インド洋で何が発生しつつあるか。仮借なき海洋進出を続ける中国と、米国を中心とする関係各国との緊張だ。閣僚人事は首相が「団結」以外何も考えていないことを物語っている。外交、防衛を念頭に置かない政権の船出だ。(了)
 
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第105 回:平成23年9月5日外交・防衛軽視政権の船出(田久保忠衛)

 

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