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今週の直言

西岡力

【第113回】親北左派がソウル市と対日外交を掌握

西岡力 / 2011.10.31 (月)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

新市長は危険人物
10月26日行われた韓国ソウル市長選挙で、親北左派市民運動家である朴元淳候補が保守派の羅卿瑗候補(ハンナラ党)を破って当選した。

今回の選挙は、市議会の多数を占める左派が小中学校全員無償給食を強行しようとし、一律無償は社会主義的ばらまきだとして反対した呉世勲前市長が8月に実施した住民投票で敗北し辞任したことを受けて行われた。第一野党の民主党は候補を出せず、無所属で出馬した朴氏を野党統一候補とするという異例の対応を取った。

朴氏は、露骨な親北発言を行ってきた危険人物だ。「哨戒艦・天安の爆沈の責任は北朝鮮をそのような行動に追い込んだ李明博政権にある」「国家保安法を悪法と見る。悪法は守る必要がない。金日成万歳と叫ぶ者も取り締まってはならない」「平沢米軍基地は侵略戦争の基地であり、済州海軍基地の建設は不法だ」などと主張してきた。彼は韓国の代表的左派団体「参与連帯」の創設メンバーだ。

慰安婦賠償を要求
実は9月に入り突然、李明博政権が日本に対して慰安婦の賠償問題を協議する外交交渉を求めるという、信じ難い反日政策を取った背景にも、朴氏と気脈を通じる韓国内親北左派団体の活動がある。

1965年国交を回復するに当たり日本は韓国に無償3億ドルを提供し、統治時代の未精算の請求権が「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と協定に記した。

90年代初め、日本国内の反日勢力の虚偽キャンペーンから始まった慰安婦騒動の際、韓国政府は日本に「強制連行があったと認めてくれ。元慰安婦へのカネは韓国が払う」と水面下で要求してきた。調査の結果、当局による強制連行はなかったことが明らかになる中、日本はその要求をのんで「総じて強制だった」という表現を入れた河野(洋平官房長官)談話を出した。

ところが2006年3月、盧武鉉政権は「韓日請求権協定で扱われなかった日本軍慰安婦など反人道的不法行為に対しては日本政府に持続的に責任を追及していく」という立場を明らかにした。これをまとめた委員会に、民間代表として「参与連帯」の孫ヒョクジェ運営委員長が参加していた。

一方的謝罪のつけ
やはり親北左派団体である挺身隊問題対策協議会がこの見解を利用して、慰安婦賠償を日本に求めないことは憲法違反だとする裁判を起こし、8月30日憲法裁判所がその主張を認める判決を下した。

日本政府は交渉に応じないとの方針を韓国に伝えたが、違憲判決に縛られる韓国政府は継続して慰安婦問題を外交の場に出し続け、日韓関係は感情的対立を深めていくという親北左派の思うつぼの展開が予想される。宮沢喜一首相、河野官房長官らが一方的に韓国に謝罪したつけが回ってきた。(了)

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第113回:親北左派がソウル市と対日外交を掌握(西岡力)