『農業経営者』副編集長 浅川芳裕
環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟すると「日本の農業は壊滅する」と言われる。一方、「国内総生産(GDP)の1.5%を占めるにすぎない農業のために他の98.5%を犠牲にするのか」との主張もある。しかし、TPP反対派の「農業壊滅論」も推進派の「農業犠牲論」も的外れだ。両論とも、農業と国民経済が一体であることを見逃している。
農業はいうまでもなく経済活動の一つである。農業の成長サイクルは、日本のGDPの推移と相似している。農業は、日本経済の高度成長期、成熟期を通じて右肩上がりであった。「失われた二十年」の間は下降傾向にある。国民所得が伸びなければ食費が削られ、その原材料を生産する農家経済に直接影響を与える。
世界第5の農業大国
先進国のうち日本だけ農業のGDP比率が低いとの議論も事実誤認だ。米国は1.1%、ドイツは0.9%、英国は0.7%で日本より低く、農業大国と言われるフランスは2%、オーストラリアでさえ3.9%にすぎない。先進国とは、経済成長によって農家が他産業に移り、農業のGDP比率が低くなった国のことだ。残った少数精鋭の農家が高度化・多様化する食マーケットに呼応し、技術力と生産性を高め、先進国の農家は付加価値を増やしていく。つまり、経済成長こそ農業発展の要諦なのである。
実は「日本は世界5位の農業大国」である。農業関連のGDPを比較した順位だ。先進国では米国に次ぐ2位で、フランス(6位)を上回り、15位のオーストラリアの3倍だ。
「農業大国であるのは日本の関税が高く、保護されているからだ」という批判は事実に反する。日本の農業生産額の3割を占める野菜の関税は、多くの品目で3%。5000億円市場の花卉(観賞用植物)はTPPを待たずとも初めから関税ゼロである。果物の関税は5~15%程度だ。野菜や花、果物のほか、既に低関税の鶏肉や卵、雑穀などを合わせると、生産額の合計は4兆5000億円で、日本農業全体の約6割に達する。補助金もほとんどなく、農家の自助努力による黒字生産品目だ。
巨大な農産物マーケット
他の先進国が外需で農業を伸ばしてきた中、日本農業は内需依存で発展してきた。逆にいえば、外需を取り込めば成長の「伸びしろ」は大きい。TPP交渉参加国は農産物輸入が急増している。経済成長と人口増加によって、過去10年間で、600億ドルから1300億ドルへと倍増した。TPPの輸入市場とは日本農業にとって輸出市場である。日本の農業関連のGDPは764億ドルだが、その2倍近い農産物マーケットが現れている。
TPPを通じて外国の農産物関税を下げさせることができ、輸出しやすくなるメリットが出る。TPPは関税引き下げにとどまらず、国際的な品種登録、検疫制度の透明化や税関の手続きの簡素化など、農産物貿易のルールづくりの枠組みだ。日本も輸出増大に向けた環境整備に主体的に参加できる絶好の機会である。他産業と同様、農業も「開国と成長」を両立させていけばよい。(了)
PDFファイルはこちらから
第114回:TPP参加で日本農業は伸びる(浅川芳裕)