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今週の直言

屋山太郎

【第112回】農協の圧力はねつけTPPに参加せよ

屋山太郎 / 2011.10.24 (月)


国基研理事・政治評論家 屋山太郎

環太平洋経済連携協定(TPP)に参加しないよう与野党の政治家に圧力をかけているのは農協中央会だ。日本の貿易依存度(輸出入額を国内総生産=GDP=で割ったもの)は30%程度で、ドイツの72%に比べて極端に低い。自由貿易協定(FTA)を結んだ国だけをとると、日本の貿易依存度は16%に下がる。日本とマレーシアはFTAを結んでいるが、日本が農産品で譲らなかったため、マレーシアも高い自動車関税を残した。

両国ともTPPに加入するとなると、このFTAはちゃらになる。自動車と農産品の関税をほぼゼロにしなければ、そもそもTPPは意味がないからだ。マレーシアがTPP参加に踏み切ったのは、TPPをテコに国内の法制度、特にサービス分野の規制緩和、ないし自由化を図りたいからだといわれている。日本の貿易依存度が低いのは、いつも農業に足を引っ張られて工業製品への関税撤廃を勝ち取れないからだ。

農業改革の好機
日本はTPPに参加するのをきっかけに、農業改革に取り掛かるべきだ。政府は水田農業の規模を平地で今の10倍程度の20~30ヘクタールにする計画を立てている。TPP参加決定を待って計画がスタートする。各国がTPPを批准してから10年後に関税撤廃が開始されるから、政府計画を達成する時間はある。

小規模農業の1俵(60キロ)当たりの生産コストは1万4000円程度で、15ヘクタール規模以上だとコストは6000円以下といわれる。効率よく耕せる大規模場を作り、多収穫米の品種を創り出せば、国際価格の4000円を切ることができるという。減反をやめて多収穫米を生産すれば、コメは立派な輸出産品になる。

農業生産は20年前の11兆円が8兆円にまでしぼんだ。フランスは大規模化を目指す農家に大々的に補助金を注入した。日本も見倣え。その前提条件は農地の売買自由を認める農地法改正と、農家を独占的に支配する農協法の改正だ。民主党政権の真価が問われる政治課題だ。

理不尽な反対論
反対論の中には、①国民皆保険が保険業参入の非関税障壁として壊される ②政府調達や公共事業の外国企業の参入で地方が荒廃する―などがある。貿易交渉で、ある国の出来上がった公的制度を壊せという議論が出たことはない。政府調達や公共事業に外国が参入する最大のメリットは談合が困難になることだ。加えて、日本の優れた土木・建設業が環太平洋に進出できるというメリットもある。

農協はTPPの交渉にも加わるなと言う。しかし、商売をやるのに商談にも加わらない店があれば、確実に潰れる。農協は日本を潰そうというのか。どうしても妥結内容が気に入らないなら署名しなければいいし、加入した後に離脱する自由はある。(了)

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