公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第167回】チベット支援に踏み出した日本を誇る

櫻井よしこ / 2012.11.19 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

11月13日、参議院議員会館の講堂は熱気に溢れていた。チベットのダライ・ラマ法王14世の講話「普遍的責任と人間の価値」を聞く会には、国会議員134名、代理98名の計232名が出席した。

民主党有志を代表して牧野聖修衆議院議員が、自民党を代表して安倍晋三総裁が挨拶し、安倍氏は「人権が弾圧されている現状を変えていくために全力を尽くすことを誓う」と述べた。講堂には共産党と社民党以外の全政党が集まり、チベット問題に象徴される人間の自由を巡る闘いに、日本が事実上コミットしたことをこの会は示していた。
 
超党派で人権弾圧を非難
法王は、政治から引退したという言葉どおり、仏教徒としての最も崇高な課題について語り、政治的発言には踏み込まなかった。ただ、一人のチベット人として、同胞が中国の苛酷な弾圧に苦しんでいる実情を訴えたのは当然であろう。チベット人に高度の自治を与えれば分裂に走るという中国の考えが間違いであり、多様な宗教と民族が共存するインドのように、自治を保障されたチベットは中国共産党体制の枠内で生きる用意があるとの訴えには説得力があった。

講話を受けて、参加議員全員で「チベット及びウイグルなどに対する中国の不当な人権弾圧について、改善を中国政府に厳しく求め」るという厳しい内容のアピール文を採択し、「チベット支援国会議員連盟」の設立も決めた。

欧米諸国の政治家と比べても今回の日本の政治家の決意と行動は立派である。その実現に国基研が少なからず貢献したことを誇りに思う。

価値観を武器に中国と闘う
今年4月にチベット亡命政府首相のロブサン・センゲ氏を国会に迎えたときも、世界ウイグル会議議長のラビア・カーディル氏が来日したときも、東京の中国大使館ははげしい妨害活動を行った。しかし、今回は全くと言ってよいほど妨害はなかった。尖閣、南シナ海問題同様、中国がチベット問題で譲歩することは考えにくく、彼らは必ず次の手を打ってくる。だが、日本が自由、人道、人権擁護を国家意思として打ち出せば、中国も容易に反論出来ない。価値観を掲げて闘うことの意義がここにある。

中国では、中国政府のチベット統治に抗議するチベット人6名が11月8日の中国共産党大会開会を目前に焼身自殺を図り、9日には青海省のチベット族自治州でチベット人学生数千人が抗議デモに集まった。共産党大会のために全土に敷いた治安要員140万人の警備体制を以てしても、人々の自由を求める動きは止められなかった。人間の自由への根源的渇望が中国の変革を内側から起こす予兆を感ずるゆえんである。日本が人権、民主主義、法治の価値観を掲げ、意を決して闘っていくべき理由もそこにある。(了)

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第167回:チベット支援に踏み出した日本を誇る(櫻井よしこ)