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石川弘修

【第168回】ミャンマーの対中依存を減らすための支援を

石川弘修 / 2012.11.26 (月)


国基研企画委員・ジャーナリスト 石川弘修
 
国家基本問題研究所の髙池勝彦副理事長ら企画委員4人は11月11日から18日までミャンマーを訪れ、大統領府、外務、国防両省などの高官と会見、動き始めたシンクタンク数ヶ所の幹部と意見交換した。直後に米大統領による初訪問を控えて民主改革推進への期待は膨らんでいたが、まだ「中国への偏り過ぎから外交バランスを回復する」(コ・コ・ライン大統領政治顧問)途上にある。

無視できぬ中国の存在の重さ
しかし、高官の発言には、中国の存在の重さがあった。まず、カン・ゾー国家計画経済開発大臣は「ミャンマーを中国に追い込んだのは米欧の経済制裁で、この20年間で対ミャンマー投資の半分近くが中国になってしまった」。これがチョー・ニュン国防副大臣になると、「他国が相手にしてくれなかった時、中国はミャンマー側に立ってくれた。受けた恩を返すのがわが国の流儀だ」とさえ言う。

昨年9月、突然、凍結を発表した北部イラワジ川上流のミッソン・ダム建設については、「工事に反対する国民の意思を尊重した」というのが政府側の説明。凍結は「国民感情が回復するまで」と表現を和らげているが、理由が「イラワジ川源流は聖なる場所であり、環境を破壊した。電力は期限付きだが全面的に中国に送られ、ミャンマー国民に還元されない」という以上、凍結の変更は難しい。ただ、中国がそのままあきらめるかどうかは不明だ。

狙いはインド洋と雲南省の連結
ミッソン・ダム工事凍結の決定は、民政移管したテイン・セイン大統領が国民の信任を得るのに役立った。とはいえ、ある国連関係者によると、中国の一番の狙いは、インド洋に面するチャウピュー港と中国雲南省を結ぶ全長700キロの天然ガス・石油パイプラインの建設にある。原油輸入国になった中国にとってインド洋から直接エネルギー資源を運べる利益は計り知れず、30万トンのタンカーも停泊できる深海港工事も進行中。パイプラインは2年後の完成予定で、並行して鉄道、高速道路を建設する計画もある。

1988年の民主化運動「88年学生世代」の共同リーダー、ミン・コ・ナインさん(49)らによると、パイプライン工事に伴う港周辺の環境破壊に抗議する反中デモが繰り広げられ、雲南省に隣接するシャン州でも土地収用などで反対が起きるだろうという。問題は政策決定が不透明であり、それが中国絡みであったり、軍部、政府関係者の利権と結びついたりしている点だ。

親日的なミャンマーの日本への期待は、国際的なルールや基準、技術をもたらすことだ。2015年の選挙を視野に入れて中国と西側の綱引きが続く中で、ミャンマーの対中依存を減らすためにも日本の支援を戦略的に進めるべきだ。国基研としても、若者を育てる政治塾も併設するミャンマー・イグレスや戦略国際関係研究所(MISIS)などシンクタンクとの交流を進めるつもりである。(了)

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第168回:ミャンマーの対中依存を減らすための支援を(石川弘修)