独立国家に経済力と軍事力が必須なように、政治には理想と現実認識が必要である。
オバマ米大統領にとって、広島訪問は核廃絶の理想を再び高く掲げる好機だった。
大統領と被爆者の抱擁に象徴される広島訪問は安倍外交の成果であり、この訪問を98%の日本国民が評価した(共同通信世論調査)。しかし、現実は甘くない。ニューヨーク・タイムズ紙は社説で、安倍晋三首相が「たびたび歴史を書き変え、日本を戦争の被害者として描き直そうとしてきた」と批判した。核廃絶を訴えるオバマ大統領は、実際には歴代大統領に較べて核弾頭削減数は少なく、今後30年間で核の性能改善に1兆ドル(約110兆円)の予算計上を決定した。
●アメリカ第一主義と欧州極右躍進
広島及び伊勢志摩サミットでの外交的成功の足下には、厳しい現実が広がっている。米共和党大統領候補になることが事実上確定したドナルド・トランプ氏が4月27日に行った外交政策演説の冒頭では「アメリカ第一主義」が強調された。オバマ氏は批判したが、トランプ氏の主張の本質は、実はオバマ氏の「アメリカは世界の警察ではない」という主張、及び民主党大統領候補指名争いにとどまるバーニー・サンダース氏の主張とも通底する。
アメリカ第一主義は1930年代後半に遡る歴史を持ち、イデオロギーの左右を超えるアメリカ社会の共通の価値観のひとつなのである。
多様性を標榜してきた世界が、多様性を統合する力を失い、ナショナリズムの台頭を許している。ドイツの反移民政党「ドイツのための選択肢」は3月の州議会選挙で大躍進した。フランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首は来年の大統領選挙の最有力候補だ。欧州連合(EU)残留か否かを問う来月のイギリス国民投票は予断を許さない。オーストリアでは5月の大統領選挙でEUの意義を信じるリベラル派候補が勝利したものの、極右候補が僅差で迫った。
こうした中、先進7カ国(G7)は自由、民主主義、人権、国際法順守など、普遍的価値観を掲げても、現実の政策がついていかない。いま必要なのはG7の力と役割の再考である。
●憲法改正の重要性
主要国におけるナショナリズムの台頭と中国の脅威という極めて大きな変化に、日本は国家として備えなければならない。米軍の占領が終わり日本が独立を回復した時、冷戦終結の時、そして湾岸戦争の時、私たちには憲法改正をはじめ、戦後日本の、国家としての決定的な不足を補う機会があった。だが、それら全てを逃してきた。そのツケの大きさを安倍首相と自民党は自覚できるか。
国土と国民を守るという国家の最重要の責務を果たすために、いま問題提起せずして、どうするのか。広島での感動と日米の真の絆を長く続かせるためにも、憲法改正で日本をよみがえらせ、民主主義国家としてまともな国軍を有することの重要性を、政治はいまこそ国民に説け。(了)