公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

古庄幸一

【第379回・特別版】ホタテ、ワカメが泣いている

古庄幸一 / 2016.06.02 (木)


国基研理事 古庄幸一

 

 5月21日、宮城県の気仙沼湾で行われた「第5回東日本大震災気仙沼海上供養祭」に出席し、大震災から5年が過ぎた気仙沼(宮城県)と陸前高田(岩手県)の復興の現状を見る機会を得た。この供養祭は、民間ボランティアが主催し、気仙沼市等は後援者として、未だ行方不明の多くの方々を洋上で供養し、併せて気仙沼の復興を考えるために毎年行われている。海上供養祭を終えた船上から湾内の大島や気仙沼を振り返り、沿岸の異常な景色に驚愕した。その後、陸前高田に移動して、その思いは更に大きくなった。

 ●復興より自然破壊の防潮堤建設
 気仙沼市は震災復興計画のキャッチフレーズを「海と生きる」と掲げている。しかし、大島など気仙沼湾にある多くの島の沿岸には、コンクリート製の高さ8~10メートルの壁(防潮堤)が立ち、場所によっては島民の住居も見えない。また、無人の島でも同じように島を囲む防潮堤の建築工事が行われている。
 「こんなことをしたら、気仙沼の海は近い将来死にますよ」と漁業組合長に話した。すると「我々もこの工事には反対です。しかし予算は国で、港湾管理は県なもので…。人命、生活を津波から守るためと言われると、反対できません」と言う。船の上から見た、カキやホヤ、ホタテ、そしてワカメなどの海藻は大丈夫かと心配になった。
 沿岸域の海洋環境保全は、「海と生きる」ために最も重要な問題だ。山から陸域そして河川・河口と、できるだけ自然に近い状況を保つのが一番大切なことは、そこで生活している漁師が一番知っている。
 陸前高田では、奇跡の一本松を含む約7万本の高田松原が囲んでいた広田湾のホタテやワカメも悲鳴を上げる日は近いだろう。何と、広田湾に注ぐ気仙川に沿った山を削り取り、その土石をベルトコンベアーで運び広田湾岸に盛り土をし、その外側に8~10メートルの防潮堤が造られている。盛り土に囲まれた奇跡の一本松も、言われなければ見えない程で、広田湾からは陸地は全く臨めない。気仙川も、津波が川を上り両岸に大被害が出た。そこで同じ様に防潮堤が出来つつある。これは復興工事と言うより、自然破壊と言ってもいい。

 ●今からでも遅くない、再考すべきでは?
 海上自衛官として海で生活し、海洋の環境保全と海洋の利用を考え、自然の力を知る1人として直言したい。古来人類は、海洋には人知の及ばない自然の力があることを学び、如何に共存するかを考えてきた。8メートルの津波に襲われたから、8メートル以上の防潮堤をコンクリートで造り自然に抗するのでなく、津波を避けて安全と人命を守る策を考えるべきだ。今からでも遅くない。防潮堤計画を再考すべきではないか。(了)